クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
「どこにいくんですか?」

「俺の家。これからの話を詰めよう」

そう言うと私の半歩先を歩き出した。
私も彼に合わせ追いかけたが5分もしないでそびえ立つタワーマンションの目の前で立ち止まった。
まさか、ここ?!

「1603だ」

彼はそう言って私にカードキーを差し出してくるが呆気に取られ開いた口が塞がらない。
上を見上げるとまさにそびえ立つと言う表現が正しい。

「佐々木さん」

「は、はい」 

私は彼の差し出したカードキーをようやく受け取った。
部屋までの入り方を説明され、ようやく部屋へたどり着いた。
まさかこんな都会の真ん中にあるタワーマンションに住んでいるなんて思いもよらなかった。
ううん。私の頭の中にはそんな想像は予想の範囲外だった。

スリッパを出され、廊下を進みリビングへと案内される。
ドアを開けると目の前には広いリビングに大きな黒い革張りのソファ、サイズのわからない巨大なテレビが壁にかけられているのが目に飛び込んできた。見渡すと6人掛けくらいのダイニングテーブルが置かれ、アイランドキッチンは最新型でまるで使われていないように綺麗なままだった。

「まぁ、座ってくれ。アイスコーヒーでいいか?」

「はい」

私はソファに促されるがままに座った。
すると目の前に広がる景色に声が上がった。

「す、すごい」

眼下には都会の景色が広がり電波塔も大きく見える。少し目線を先に動かすと富士山が見える。

「はい、どうぞ」

私の目の前に置かれたのはマグカップに入ったアイスコーヒーだった。

「すまないが、カップはこれしかないんだ」

多岐川さんは木製のお椀のようなものにアイスコーヒーが入っていた。

「ぷっ」

思わず吹き出してしまった。
私に出したのは普段自分が使っているカップなのだろう。だから足りなくなって自分はお椀で飲むなんて可愛すぎる。

「これで分かるようにここの部屋には何もない。俺は寝に帰ってくるだけ。だから君の好きなようにしてもらって構わない。これから長くて数年暮らすのだから君の欲しいものを買い揃えてくれ」

私は頷いた。

「それから妻になる限りパーティーには出席を頼む。俺からはそのくらいだな」

「自信は全くないですが、頑張ります」

多岐川さんは大きく頷くと私の前に紙を出してきた。
婚姻届だ。
始めてみるこの紙に一気に緊張感が高まった。

「俺ははなみずき製菓を優遇すると約束しよう。それ以外に佐々木さんが希望することはあるか?」

「両親には絶対に言わないって約束を守ってください。あとは離婚した後も契約の続行をお願いします」

「何度も言ったが品質が落ちなければ約束する。あと、ご両親へは恋愛結婚だと伝える。君もうちの両親にはそう話を合わせてくれ」

「わかりました」

私たちは並んで婚姻届にサインをした。
両親たちに挨拶した時に保証人のサインをもらうと言うことで話はまとまった。

私の部屋や家の中を案内、説明されるとまたリビングへ戻り今後の予定を話し合った。
6月には入籍だけでも済ませ、引っ越しをしてきて欲しいと言われた。
となるとあと1か月くらい。
その間にご挨拶に行かなければならないためお互いの都合を合わせるとかなりタイトなスケジュールとなりそう。
私の定休日を彼に伝え、彼の予定も私のスマホのメモに記入した。

最後にこれからは美波と呼ばせて欲しい、自分のことは修吾と呼ぶようにと言われた。
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