クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
翌朝、修吾さんが朝迎えにきてくれ私の荷物を運び出した。
父は仕事のため今日は母が送り出してくれる。

「多岐川さん、不束な娘ですがどうぞよろしくお願い致します」

「はい」

「お母さん! しんみりしないでよ。明日は仕事に来るんだからね」

「分かってはいるけれど、同じ家に帰ってこないんだと思うと寂しいのよ」

そう言われると私だって寂しくなる。
目を潤ませていると修吾さんはハンカチを差し出してくれる。
私は目元を拭うと、笑顔で「いってきます」と伝えて車に乗り込んだ。

市役所に寄り、婚姻届を出すと晴れて多岐川美波となった。

軽くランチをとり、マンションへ向かうと彼はそのまま仕事に行ってしまった。
本来なら入籍の日に仕事だなんて、と思うけれど私たちはそんな関係ではない。
むしろこれが正しい。
彼は両親に良くしてくれるがそれはお願いしたから辻褄を合わせてくれているだけだと改めて思い知らされた。

私は持ってきた荷物を解き、片付けると近くへ買い物に出かけた。
生活費を出してもらう代わりに家事をすると約束したからだ。
食べ歩きが趣味の彼に出す食事を悩むが趣味と普段の食事は違うからなんでもいいと言われたので今日は和食にすることにした。

彼に渡されたブラックカードの家族カードでお支払いを済ませ、夕飯の準備をするがあっという間に終わってしまう。

静まり返った部屋で早速寂しくなってしまった。
実家にいる時には必ず誰かがいて、賑やかな笑い声に包まれていた。
職人さんたちが寄ることも多く大家族のような雰囲気で育ったためひとりがこんなに寂しいものだとは思いもやらなかった。
夕暮れと共に寂しさが増し、テレビをつけるが頭に入ってこなくて雑音にしかならない。
それでも人恋しくてテレビをつけ、窓際で日が暮れるのをずっと眺めていた。

真っ暗になってどのくらい経ったのだろう。
ドアの鍵が開く音がした。
私は思わず玄関まで走っていった。

「うわぁ、どうしたんだ?」

私が勢いよく走ってきたので、驚いた修吾さんが声を上げた。
けれど私の顔を見て、理解したのか「待たせたな」と言って頭を撫でるとリビングへと促してくれた。

「ゆ、夕飯はすぐ食べますか?」

私は気を取り直して修吾さんに尋ねるとお風呂からにする、と言うのでキッチンに立つと温め始めた。
部屋に誰かがいるだけで急に空気が温かくなったように感じた。
思わず修吾さんを見て涙が溢れてしまい恥ずかしかったが、それを何も言わずにいてくれた彼の優しさに報われた。
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