クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
「いい匂いがしてる」

「今日は鶏の照り焼きとインゲンの胡麻和え、切り干し大根の煮物とお味噌汁です」

「そうか」

あれ?
あんまり好きじゃなかった?
たしかに30歳の若い男性が好きなメニューではなかったかも。
実家にいる時には早く帰った人が支度をしていたからそのつもりで準備してしまった。
けれどよく見たら茶色の物ばかりで御曹司の食べる物ではなかったと反省した。
なんでもいいと言われたけれど、いくらなんでもこれじゃあ田舎のおばあちゃんが作ったようなメニューだった。

「すみません。こんなものを作ってしまって。明日からはちゃんとしますから」

「え? いや、美味しそうだよ」

彼は冷蔵庫からビールを2缶取り出すとテーブルにつき、先日購入したグラスに注ぎ始めた。

「美波も座って」

彼はグラスを渡すと重ね合わせた。

「今日からよろしく」

「よろしくお願いします」

乾杯すると一気にグラスを開ける修吾さん。

「いただきます」

彼はいつもの様にきちんと手を合わせると味噌汁から飲み始めた。
味が心配で私の箸は進まない。
じっと彼の食べる姿を見つめていると笑い声が聞こえたきた。彼が笑う声を始めて聞いた。

「そんなに心配しなくても全部美味しいよ。美波は料理が上手なんだな。さ、一緒に食べよう」

「はい。でもすみません。こんなものしかできなくて。家庭料理って言ってもお婆ちゃんみたいですよね」

「いや、こういう食事の方が嬉しいよ。仕事の時は会食も多いし昼から重たいんだ。だから家庭料理が食べられるなんて贅沢だ。これからも頼む」

私をフォローしてくれたのかな?
でもそう言ってくれて嬉しかった。
さっきまでひとりで寂しくなっていたのにあっという間にそれは消え去った。

「入籍を済ませたので本格的にはなみずき製菓の話もしていこう。今考えているのは季節ごとの新作を取り入れたいと思っている。まずは式場見学に来たゲストへのプチギフトとして渡してみようかと思うのはもちろんだが、スイートルームに置いてみるのはどうかと思っているんだ」

私からはなかなか切り出しにくい話だったが彼は入籍した今日、きちんと話をしてくれる。このために入籍したのだから当たり前のことをだけれど、きちんと考えていてくれたことに安堵した。マンションの準備をしている時にも時折金平糖について聞かれたりしていたが私にはただ結婚するカップルに売りこめれば、としか考えていなかった。

「例えば今なら紫陽花をモチーフにした色合いだったり七夕は星、夏は海のイメージだったりというのはどうか?はなみずきさんは味は季節ごとに限定があるだろう。あれを応用してパッケージを変えたりとか。俺の中での取りかかりはそんなふうにしてみたい。いきなり導入するのは周囲からの風当たりが強くなるだろうから」

「なるほど。いいですね。たしかに味は季節ごとにありますけど見た目にこだわるのは試したことがないです。父に相談してみます」

「ああ。そうしてくれ。世に広めないなんてもったいない」

彼は話をしながら私が作ったものを全て平らげてくれた。綺麗になったお皿を見てホッとした。
私は食器を片付けるとお風呂に行き、自室に戻った。
家に誰かがいるだけでこんなにも安心できるんだと改めて知った。

修吾さんから今日はなみずき製菓の話を出してくれるとは思わなかった。
でも先を見据えて考えていてくれていたんだと思うだけでますます私の胸が温かくなった。
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