クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
翌朝からとても忙しい毎日が始まった。
今まで朝ごはんは途中で買ったコンビニのものを食べていたそうで、私がおにぎりと味噌汁を出すと喜んでいた。

修吾さんを送り出すと洗濯、掃除を済ませ私も出勤する。
仕事から帰ると洗濯をしまい、夕飯の準備をする。
実家で母にしてもらっていたことを自分でするとなるととても大変。母のありがたみを感じた。

それでも先日修吾さんに言われた話を家族や従業員に話すと、恐縮していたが是非メリディアンに置かせてもらえるならやりたいと前向きな発言があり、試行錯誤し始めた。
色合いや味を考えると今からだと紫陽花は時期を過ぎてしまうだろう。
その次の季節を見越し、朝顔に着目した色合いやパッケージを考え始めた。
初夏から咲き続ける朝顔の力強さに今のはなみずき製菓を重ね合わせる。

多岐川さんに恥ずかしい商品は出せない、彼に恥をかかせるわけにはいかないと父を始め従業員が張り切っているのをみて久しぶりに活気のある作業場になっていた。

「多岐川さんは本当にいい人ね。美波は幸せものね」

母のそんな言葉に私は戸惑いつつも頷いた。
何も知らない母にとってはいいお婿さんだろう。
私たちの契約を知ったら、と思うと背筋が凍りつく。
そしていつか終わりを迎える結婚だと思うとこれ以上両親を喜ばせていいのか頭を悩ましてしまう。

昼休みになり、スマホを見ると珍しく修吾さんからメッセージが入っていた。

【3日後に創立記念パーティーに呼ばれている。父が結婚したことを話してしまい夫婦同伴でと言われてしまったので頼む】

え? パーティー?
最初の契約通り断ることはできない。
けれど何を着ていくべきかわからない。
由梨子にすぐ助けを求めるが、私たち姉妹には縁のない世界。
仕方なく修吾さんに連絡をした。

【すみません。何を着ていけばいいのかわかりません。どうしたらいいでしょうか】

すると程なくして返信があった。

【うちのホテルで着替えて、そのままセットもしてもらうといい。15時に来れるか?】

【わかりました】

これで着るものはどうにかなったがパーティーだなんて初めて。結婚式の披露宴にしかいったことがないため不安になっていると、由梨子がニヤニヤと話しかけてきた。

「いいなぁ。多岐川さんとパーティーかぁ。漫画みたいにエスコートとかされちゃうの?」

「え?」

「ふたりで仲良くグラス片手に回ったりするんじゃない? マンガでよく見るよね。憧れちゃう」

「そうなの?」

「お姉ちゃんは何にも知らないんだから!」

由梨子にたしなめられても仕方がない。
本当に私は疎くて、真面目だけしか取り柄がないのだから。
今から由梨子のマンガを借りて勉強しようかとも思ったが、所詮マンガの世界。どのくらい役に立つのか分からない。
頭を悩ませていると、由梨子は笑いながら私の顔を見て、

「お姉ちゃんが疎いって分かってて結婚したんだから大丈夫じゃない? 多岐川さんに任せたらいいよ」

ため息混じりの私を笑いとばすと由梨子はまた陳列するためにお店へと出ていった。
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