クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
翌朝から私は仕事の合間を縫ってホテルへの営業をかけるために本社へ電話をしてアポイントを取りたいとお願いして回るがなかなかいい返事は来ない。
小さな製菓の会社は会ってもらうのさえままならないことがよくわかった。

どうしたらいいんだろう。
ホテルは難しいのかな。
結婚式もあるし、お茶受けとしても出してもらえたらいいなと安易に大きな所ばかりに連絡してきたが視点を変えなければならないのかもしれない。
けれどデパートなどは場所代も取られてしまう。今のうちの現状でそれは無理。
小さな式場を回ったほうがまだ現実的なのかも知れないと思うとため息が出る。
以前付き合いのあった式場は、たかが金平糖と言われ価格をたたかれた。味も質の違いも訴えたところ、なら安値のものにするからと切られてしまった。
食べてもらえれば違いは分かるのに、と思うがコストを抑えたい人たちには金平糖にかかるお金はもったいなく感じるのだろう。
ヨーロッパでは昔から愛されてきた砂糖菓子だが質の低下は著明だ。うちのように職人の手で調整することで食感も全く違うのにと思うが、いくら言っても知ってもらい食べてもらわないことには埒があかない。

店の自動ドアが開き、私は反射的に笑顔で振り向くとすらりとした長身のスーツを着た男性が立っていた。

「いらっしゃいませ」

男性は中へ入ってくるとぐるりと見渡している。
男性が来るのは珍しい。しかもスーツを着ているところを見るとお使い物なのかな?

「何かお探しのものはございますか?」

「ああ。みかんとコーヒーが欲しい。だが、それ以外にも色々あるんだな」

「はい。人気はそちらの2点ですが、季節限定のイチゴも美味しいですよ。お味見がございますので宜しければどうぞ」

男性の手の上にひとつのせるとポンっと口の中へ運んだ。

「うん、美味いな」

「ありがとうございます。他にはレモンなんていかがでしょう。甘酸っぱくて私はおススメです」

これも彼の手の上にのせるとまたポンっと口に入れる。

「うん、これも美味い。ではどちらももらおう。それにこの抹茶も混ぜて5種類をそれぞれ2袋ずつ頼む」

「ありがとうございます。お使い物ですか? ご自宅用ですか?」

「自宅用で」

彼はそう言うと店舗を見てまわった。
私は袋に品物を詰めていると彼に声をかけられた。

「これは何?」

「え? ああ、ボンボニエールですね。金平糖の入れ物です。ヨーロッパではポピュラーでさまざまな形やデザインがあって集めるのを楽しむ方も多いです。皇室でもお祝い事には用意されていらっしゃるようですよ」

「そうなのか」

うちは陶器のボンボニエールを常時何種類も用意しているが、なかなか出る商品ではない。
お使い物の時には値段的にも缶が出ることが多い。そのため缶の方が種類が多くデザインも豊富。
ただ、私は昔ながらのボンボニエールに入れる方が素敵だなと思い、趣味も兼ねて置いていると言っても過言ではない。
彼は陶器のボンボニエールを手に取り頷いている。

「センスのいい陶器だな。このふたつを貰おう」

「ありがとうございます」

私は男性から受け取ると丁寧に梱包しお会計をした。
そういえばこのボンボニエールは値が少し張るけれど2個も購入していいのかしら。
値段を確認していなかった彼のことが心配になった。

「お客様、こちらの花柄はドイツのものなので1万円くらいしてしまいます。こちらは国産なので6000円です。どちらもお包みして大丈夫でしょうか?」

私はおずおずと伺うと彼は頷いた。

「かしこまりました」

改めて包んだものを全て紙袋に入れるとお会計をしようとレジへ向かうと彼はさっとカードを出してきた。
見たことのないカードで、これが世に言うブラックカードなのかなと受け取るのを緊張した。

彼を自動ドアまでお見送りし、頭を下げるとまた来るといい店を後にした。

また来る、だなんて甘党なのかしら。
自宅用でこんなに購入される男性は珍しいので奥様へのお土産かしら、と想像を膨らませてしまった。
< 3 / 54 >

この作品をシェア

pagetop