クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
実家に戻った私はますますつわりがひどくなり、仕事に行けず一日中寝て過ごすことが多くなった。
母はなんとなく理由がわかっているようでさりげなくフォローしてくれるが父や妹は心配して日に何度も見にやってくる。
そんなふたりの様子を見るとなんだかホッとした。
家に帰ってきてよかった。

修吾さんからは家を出た夜に電話が来たが出られずにいた。その後もメッセージが来ていたが開く気になれず、スマホは放り投げたまま。

食事もままならずふらふらするがなんとか水分で持ち堪えている感じだ。

あれから2週間、今日は定期検診の日。
私は久しぶりにきちんと洋服を着て外に出るとだいぶ秋めいてきたのか夏の空気と変わっていた。

「多岐川さーん」

まだ修吾さんの名字で呼ばれることに不安になった。もしかしたら既に役所に出され、私は佐々木に戻っているのではないか。
家に帰ったら確認しなければ、と憂鬱な気持ちになった。

久しぶりのエコーはこの前見た赤ちゃんとは全く姿が変わり、頭や体、手足がわかるようになっていた。時折動く様子が分かり、物凄く可愛い。

「順調ですね」

先生からお墨付きをもらうと安心した。
食事は取れていないが赤ちゃんは順調なんだと思うと涙が出てきた。

「妊娠すると情緒不安定になるものですよ。皆さんなりますから無理せず、自分のペースで大丈夫ですよ」

看護師さんに背中をさすられると優しくされたことでまた感情が昂ぶり涙がこぼれる。

「多岐川さん。体重は落ちているけれど順調ですよ。水分が取れないなら点滴もできますからね。つわりはこれから日に日に落ち着いてきてくれます。いつかは終わりがくるので焦らずに待ちましょう」

先生からも励まされながら私は診察室を出た。
待合室には大きなお腹の妊婦さんがたくさんいて、まだ膨らんでない私のお腹を見ると不安になった。
たった今、順調と言われたばかりなのに、と頭ではわかっているがぺたんこのお腹をさすると心配になる。

手にしたエコーの写真を見ると私の赤ちゃんだって動いていた、成長していた、と自分で自分を励ますように産科をあとにした。
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