クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
その日、店を閉め家へ戻ろうとした時に私を呼び止める声がした。
私が振り向くと昼間のスーツを着た男性が立っていた。
「お客様、どうなさいましたか?」
声をかけると私に名刺を手渡してきた。
見るとそこにはメリディアンホテル副社長と書かれていた。
メリディアンホテルといえば先日行った営業先。
あ……あの時の!
「思い出してくれたかい?」
私はパクパクと声にならないが頷き返した。
「君があの時くれた金平糖があまりに美味しくて病みつきになったよ。他の物と違うこの味と食感にね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
やっと出たお礼の言葉。
でもまさかあの時に渡したのがホテルの副社長だったなんて思いもしなかった。
「あの時も営業をかけにきたと言っていたけど、今日も他店舗を持てるほどではないと言っていたな。申し訳ないけれど実情を調べさせてもらったよ」
あ……。
「それで提案をしにきたんだ。君は俺と政略結婚をして欲しい。条件を飲むならはなみずき製菓と契約をしよう」
「けっ、結婚?」
「政略結婚だ」
「はなみずき製菓はとても魅力的な商品を作っているのにアピールが足りていないと思う。広報力が足りない。職人気質だといっても販路を広げないとダメだろう。ネット販売などをしたくないのならどこか固定客を捕まえるのが1番だ。うちなら系列ホテルもあるし、何より結婚式にも力を入れているから引き菓子に入れることも可能になるだろう」
私が望んでいた内容そのものだ。
彼の話を見つめて聞いていると、話は続く。
「だが、うちも他社が乗り入れてきている。だから関係が強固なものとなるように政略結婚だ。むろん、味や質が落ちたら終わりだ」
「味が落ちたことは今までありません! でもどうしてそんな話をするんですか? あなたにメリットはありません。うちにとっていい話なだけですよね?」
私は訝しげに聞いた。
ホテルとの契約は喉から手が出るほど欲しい話だ。けれどいくら金平糖を気に入ってくれたと言っても政略結婚までしなければならない意味がわからない。
どちらにもメリットがあって政略結婚は成立するはず。
「うちにとってのメリットは俺のお見合いが終わることだ。結婚しない限り終わることのないお見合いにうんざりしている。今は仕事に集中したいんだ。だから君はダミーだ」
ダミーだと言い切られてしまうとまるで人として見てもらえていないように感じる。
けれど彼からの提案は魅力的だ。
私は立ち尽くし考え込んでいると彼はまた口を開いた。
「適当なところで離婚しよう。はなみずき製菓との契約は継続するよう配慮する」
「適当なところとは?」
「俺の仕事が落ち着いた頃、だな。そうすれば家庭を持つ気にもなるだろう。ま、1.2年か?」
彼が家庭を持つ気になれば私はお払い箱になる、と。たとえ2年経ったとしても私ははまだ26歳。やり直しのきく年齢だ。このままはなみずき製菓を潰すわけにはいかない。父と一緒に働いている職人さんたちの生活もかかっている。技術を絶やすなんて絶対にさせてはならない。
私は意を決して彼に向き合った。
「わかりました。政略結婚します。けれど家族にはそのことを伝えないでください。家族の負担になりたくないんです」
「なるほど。ではご両親には伝えない。うちの両親にも恋愛だと伝えることにしよう。そうすれば全てうまくいくだろう」
彼は頷くと私に手を差し出してきた。
彼の大きくてがっしりとした手に包まれると不思議と安心感があった。
彼は連絡先を交換すると帰って行った。
私が振り向くと昼間のスーツを着た男性が立っていた。
「お客様、どうなさいましたか?」
声をかけると私に名刺を手渡してきた。
見るとそこにはメリディアンホテル副社長と書かれていた。
メリディアンホテルといえば先日行った営業先。
あ……あの時の!
「思い出してくれたかい?」
私はパクパクと声にならないが頷き返した。
「君があの時くれた金平糖があまりに美味しくて病みつきになったよ。他の物と違うこの味と食感にね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
やっと出たお礼の言葉。
でもまさかあの時に渡したのがホテルの副社長だったなんて思いもしなかった。
「あの時も営業をかけにきたと言っていたけど、今日も他店舗を持てるほどではないと言っていたな。申し訳ないけれど実情を調べさせてもらったよ」
あ……。
「それで提案をしにきたんだ。君は俺と政略結婚をして欲しい。条件を飲むならはなみずき製菓と契約をしよう」
「けっ、結婚?」
「政略結婚だ」
「はなみずき製菓はとても魅力的な商品を作っているのにアピールが足りていないと思う。広報力が足りない。職人気質だといっても販路を広げないとダメだろう。ネット販売などをしたくないのならどこか固定客を捕まえるのが1番だ。うちなら系列ホテルもあるし、何より結婚式にも力を入れているから引き菓子に入れることも可能になるだろう」
私が望んでいた内容そのものだ。
彼の話を見つめて聞いていると、話は続く。
「だが、うちも他社が乗り入れてきている。だから関係が強固なものとなるように政略結婚だ。むろん、味や質が落ちたら終わりだ」
「味が落ちたことは今までありません! でもどうしてそんな話をするんですか? あなたにメリットはありません。うちにとっていい話なだけですよね?」
私は訝しげに聞いた。
ホテルとの契約は喉から手が出るほど欲しい話だ。けれどいくら金平糖を気に入ってくれたと言っても政略結婚までしなければならない意味がわからない。
どちらにもメリットがあって政略結婚は成立するはず。
「うちにとってのメリットは俺のお見合いが終わることだ。結婚しない限り終わることのないお見合いにうんざりしている。今は仕事に集中したいんだ。だから君はダミーだ」
ダミーだと言い切られてしまうとまるで人として見てもらえていないように感じる。
けれど彼からの提案は魅力的だ。
私は立ち尽くし考え込んでいると彼はまた口を開いた。
「適当なところで離婚しよう。はなみずき製菓との契約は継続するよう配慮する」
「適当なところとは?」
「俺の仕事が落ち着いた頃、だな。そうすれば家庭を持つ気にもなるだろう。ま、1.2年か?」
彼が家庭を持つ気になれば私はお払い箱になる、と。たとえ2年経ったとしても私ははまだ26歳。やり直しのきく年齢だ。このままはなみずき製菓を潰すわけにはいかない。父と一緒に働いている職人さんたちの生活もかかっている。技術を絶やすなんて絶対にさせてはならない。
私は意を決して彼に向き合った。
「わかりました。政略結婚します。けれど家族にはそのことを伝えないでください。家族の負担になりたくないんです」
「なるほど。ではご両親には伝えない。うちの両親にも恋愛だと伝えることにしよう。そうすれば全てうまくいくだろう」
彼は頷くと私に手を差し出してきた。
彼の大きくてがっしりとした手に包まれると不思議と安心感があった。
彼は連絡先を交換すると帰って行った。