クールな御曹司は離縁したい新妻を溺愛して離さない
11時ちょうどになると店の前に白い車が横付けされた。
カーウィンドウが下りると中から多岐川さんが覗き込むように顔を見せた。
「乗って」
私はすぐに助手席のドアを開けると乗り込んだ。
車はすぐに発進した。
「お昼はまだ食べてないよな?」
「はい」
「よし」
そう言うと行き先は決まっているようで迷うことなく車を走らせた。
車が到着したのは一戸建てのお店だった。
意外だなと思い彼を見ると笑っていた。
「意外だと顔に書いてある。ここの味は間違いがない。それにプライバシーが守られている」
なるほど。
今からする話は誰にも聞かせられないってことだと理解した。
それよりもすごいお店に連れて行かれず少し安心した。
キレイめに仕上げてくれたとはいえ、もし昼から高級フレンチとかに連れて行かれていたらいたたまれなかっただろう。
玄関を開けるとドアのベルが鳴った。
するとエプロンをした女性が出てきた。
「修吾くん、待っていたわ。二階へどうぞ」
多岐川さんはよく知っているのか自分から2階に上がっていた。
階段を登る時1階の様子を見るとテーブルが何席も置かれ、満席になっていた。
バターやガーリックの香りがしていて食欲をそそられる。
2階も何席もテーブルが置かれているが誰もいない。要は貸切だ。
1階の満席を見ると普段は2階も満席になるであろうことは容易く想像できるが今日は彼が貸し切ったのだろうと思うと急に緊張してきた。
メニューを手渡されると、ここはイタリアンのお店のよう。
私が何にしようか悩んでいると彼はもう決めたのかメニューを閉じてしまった。
慌てて私はメニューと睨めっこするが慌てていると返って決められない。
見かねたのか彼が声をかけてきた。
「俺はミートドリアにする。あとはシーザーサラダとアイスティー。おすすめはパスタなら手長海老のトマトクリームかポルチーニ茸のクリームパスタかな。ピザは半熟卵とパンチェッタが美味しいと思う。でもみんなどれも美味しいよ。シーザーサラダはかなり量が多いからよければシェアしよう」
「ではトマトクリームパスタとアイスティーにします。サラダはシェアしてください」
彼は頷くと呼び鈴を鳴らし先ほどの女性を呼び注文をした。
「昨日までは忙しかったか? 連休は観光シーズンだ、うちもなかなかの忙しさだった」
「そうですね。でもお客様の数は減ってるように思いました。ただ、客単価は増えた気もします」
「そうか。どうしても高級品というイメージが強いからな。ただ、あの値段を払うだけの価値のある味だ。知る人ぞ知ると言う商品になれるといいな」
「はい」
「この前の話はどうする? 日にちが空いて怖気付いたのではないかと思っていたんだ。今ならまだ断ってもいい」
彼は私が辞めると言い出すのではないかと思っているようだ。
「断ってほしいですか?」
私はおずおずと聞いてみた。
彼の方こそメリットの薄い私と政略結婚だなんて間違いだったと気がついたのではないか。
「まさか。俺は君が覚悟を決めているのなら早急に話を進めるつもりだ」
「本当ですか?それにはなみずき製菓のことも……」
「もちろんだ。この前の話の通りだ。ただ、品質が落ちるなら悪いが契約は打ち切るが今のままであれば問題はない」
真面目な表情の彼は騙しているように見えない。
「では私はこの話をお受けしようと思います」
「分かった」
それだけ言うと食事を黙々としていた。
「あの、でも私は多岐川さんのことを何も知りません。少しお話しませんか?」
私は彼の様子を見ながらおずおずと切り出した。
名前と肩書きしか知らないままで結婚はできない。
「多岐川修吾、30歳。K大学経営学部卒業。そのあと都内のホテルに3年勤務してからメリディアンに移った。今は主に本社にいるが系列ホテルも見に回っている。趣味は釣りと食べ歩き。好きなものは甘いものだな。以上」
すらすらと自己紹介をしてしまい間に口を挟む余裕はなかった。
彼にここまで言わせて私が言わないわけにはいかない。
「えっと、佐々木美波、24歳。妹の由梨子と両親の4人暮らしです。J大学の英文科卒業。趣味は旅行です」
「好きな食べ物は?」
「甘いものが大好きです。あとは茹でたとうもろこしです」
その答えに意表をつかれたのか彼はクスクスと笑い始める。
「茹でたとうもろこしという人は初めてだよ。確かに美味しいけどな」
「大好物なので夏が楽しみで仕方ないんです。多岐川さんはどこへ釣りに行くんですか?」
「東京湾か、三浦半島、伊豆半島が多いかな。最近じゃ遠出はできないからもっぱら近場だ」
「釣りなんて楽しそうですね」
やっと会話らしい会話が成り立ち始めた。
すると彼のスマホの着信音が鳴り出した。
立ち上がると隅へ移動し、話し始めてしまう。
「すまない。仕事をもう少し抜け出せる予定がトラブルがあったようだ。戻らなければならない。また改めて話したいが次の休みはいつだ?」
「明日です」
「わかった。また明日会おう。送っていくよ」
急なトラブルだって言っていたのに私を送り届けようとするなんて思っていたよりも真摯だと思った。急いでいるだろうにそういう声かけが出来るなんてスマートだ。
「大丈夫です。まだ昼間だしひとりで帰れますよ」
私は早速立ち上がるとバッグを持った。
彼も同時に立ち上がると階段へむかうと下りながら、
「本当はここのドルチェを食べて欲しかったんだ。また来よう」
そう言ってくれた。
政略結婚でも多岐川さんとならうまくやれるかもしれない、ふとそう感じた。
カーウィンドウが下りると中から多岐川さんが覗き込むように顔を見せた。
「乗って」
私はすぐに助手席のドアを開けると乗り込んだ。
車はすぐに発進した。
「お昼はまだ食べてないよな?」
「はい」
「よし」
そう言うと行き先は決まっているようで迷うことなく車を走らせた。
車が到着したのは一戸建てのお店だった。
意外だなと思い彼を見ると笑っていた。
「意外だと顔に書いてある。ここの味は間違いがない。それにプライバシーが守られている」
なるほど。
今からする話は誰にも聞かせられないってことだと理解した。
それよりもすごいお店に連れて行かれず少し安心した。
キレイめに仕上げてくれたとはいえ、もし昼から高級フレンチとかに連れて行かれていたらいたたまれなかっただろう。
玄関を開けるとドアのベルが鳴った。
するとエプロンをした女性が出てきた。
「修吾くん、待っていたわ。二階へどうぞ」
多岐川さんはよく知っているのか自分から2階に上がっていた。
階段を登る時1階の様子を見るとテーブルが何席も置かれ、満席になっていた。
バターやガーリックの香りがしていて食欲をそそられる。
2階も何席もテーブルが置かれているが誰もいない。要は貸切だ。
1階の満席を見ると普段は2階も満席になるであろうことは容易く想像できるが今日は彼が貸し切ったのだろうと思うと急に緊張してきた。
メニューを手渡されると、ここはイタリアンのお店のよう。
私が何にしようか悩んでいると彼はもう決めたのかメニューを閉じてしまった。
慌てて私はメニューと睨めっこするが慌てていると返って決められない。
見かねたのか彼が声をかけてきた。
「俺はミートドリアにする。あとはシーザーサラダとアイスティー。おすすめはパスタなら手長海老のトマトクリームかポルチーニ茸のクリームパスタかな。ピザは半熟卵とパンチェッタが美味しいと思う。でもみんなどれも美味しいよ。シーザーサラダはかなり量が多いからよければシェアしよう」
「ではトマトクリームパスタとアイスティーにします。サラダはシェアしてください」
彼は頷くと呼び鈴を鳴らし先ほどの女性を呼び注文をした。
「昨日までは忙しかったか? 連休は観光シーズンだ、うちもなかなかの忙しさだった」
「そうですね。でもお客様の数は減ってるように思いました。ただ、客単価は増えた気もします」
「そうか。どうしても高級品というイメージが強いからな。ただ、あの値段を払うだけの価値のある味だ。知る人ぞ知ると言う商品になれるといいな」
「はい」
「この前の話はどうする? 日にちが空いて怖気付いたのではないかと思っていたんだ。今ならまだ断ってもいい」
彼は私が辞めると言い出すのではないかと思っているようだ。
「断ってほしいですか?」
私はおずおずと聞いてみた。
彼の方こそメリットの薄い私と政略結婚だなんて間違いだったと気がついたのではないか。
「まさか。俺は君が覚悟を決めているのなら早急に話を進めるつもりだ」
「本当ですか?それにはなみずき製菓のことも……」
「もちろんだ。この前の話の通りだ。ただ、品質が落ちるなら悪いが契約は打ち切るが今のままであれば問題はない」
真面目な表情の彼は騙しているように見えない。
「では私はこの話をお受けしようと思います」
「分かった」
それだけ言うと食事を黙々としていた。
「あの、でも私は多岐川さんのことを何も知りません。少しお話しませんか?」
私は彼の様子を見ながらおずおずと切り出した。
名前と肩書きしか知らないままで結婚はできない。
「多岐川修吾、30歳。K大学経営学部卒業。そのあと都内のホテルに3年勤務してからメリディアンに移った。今は主に本社にいるが系列ホテルも見に回っている。趣味は釣りと食べ歩き。好きなものは甘いものだな。以上」
すらすらと自己紹介をしてしまい間に口を挟む余裕はなかった。
彼にここまで言わせて私が言わないわけにはいかない。
「えっと、佐々木美波、24歳。妹の由梨子と両親の4人暮らしです。J大学の英文科卒業。趣味は旅行です」
「好きな食べ物は?」
「甘いものが大好きです。あとは茹でたとうもろこしです」
その答えに意表をつかれたのか彼はクスクスと笑い始める。
「茹でたとうもろこしという人は初めてだよ。確かに美味しいけどな」
「大好物なので夏が楽しみで仕方ないんです。多岐川さんはどこへ釣りに行くんですか?」
「東京湾か、三浦半島、伊豆半島が多いかな。最近じゃ遠出はできないからもっぱら近場だ」
「釣りなんて楽しそうですね」
やっと会話らしい会話が成り立ち始めた。
すると彼のスマホの着信音が鳴り出した。
立ち上がると隅へ移動し、話し始めてしまう。
「すまない。仕事をもう少し抜け出せる予定がトラブルがあったようだ。戻らなければならない。また改めて話したいが次の休みはいつだ?」
「明日です」
「わかった。また明日会おう。送っていくよ」
急なトラブルだって言っていたのに私を送り届けようとするなんて思っていたよりも真摯だと思った。急いでいるだろうにそういう声かけが出来るなんてスマートだ。
「大丈夫です。まだ昼間だしひとりで帰れますよ」
私は早速立ち上がるとバッグを持った。
彼も同時に立ち上がると階段へむかうと下りながら、
「本当はここのドルチェを食べて欲しかったんだ。また来よう」
そう言ってくれた。
政略結婚でも多岐川さんとならうまくやれるかもしれない、ふとそう感じた。