あの日の返事をもう一度。
 ギリっと奥歯を噛み締めたとき、グイッと手を引かれる。

 「はーちゃ…木波くん…!」

 「……なに」

 しばらくの沈黙の後、渋々振り返る。

 何を、言われるんだろう。

 「あの、えっと…その…」

 麻央は口を籠らせる。

 「さ、さっきの…斗真くんに…その、だ、抱きしめられてたのは、その…」

 やめろ。言うな。

 「よかったな。」

 後で、嫌でも聞くことになるだろうけど、今は何も、言わないでくれ。

 その一心で麻央の言葉を遮るために出てきたのは、そんな一言だった。
 
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