こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
「あ、あのっ。革の匂いっていいですよね。私、この匂いが大好きで」
何か聞かれたわけでもないのに、小春は焦って言い訳をした。
でも、その内容が妙なものになってしまった。
革の匂いを嗅ぐのが好きなんて、変態みたい!
「匂い?」
相変わらず淡々と職人は聞いた。
「匂いって大事ですよね。食べ物も美味しいそうな匂いがしないと、食べる気がしないもの」
ギャー!もっと変なことを言ってしまった!
焦る小春を見て、職人はクスっと笑った。
「革は食べられませんけど…。でも、僕もこの匂いが好きです」
不意打ちの笑顔が今までの雰囲気をがらりと変えた。
もじゃもじゃの髪に丸眼鏡。笑うと顔がクシャッとなる。
素敵な人かも!
小春はドキドキしながら、部屋を出た。
『革職人Kei』さん。
小春が『こばとヴィレッジ』の仲間入りをするときにはまだいるだろうか。
四月が待ち遠しい。
一月の冷たい空気に、はーっと白い息を吐いた。