こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
まだほかほかのお弁当の蓋を開けて、「さぁ食べてくださいね」と促す。
お弁当を手渡すだけだと、食べずに置いておかれることがあるのだ。
これまた、『ここまでする?お節介にも程があるんじゃ』と悩んだが、こうするとケイは素直に食べるのだ。
「これ何が入ってるの?魚?」
眼鏡を押し上げて春巻きをまじまじと観察し、パクっとかぶりつくケイを、小春は飼育員にでもなったような気分で見ていた。
ふと、壁が視界に入り、いつもの場所にあるべきものがないことに気づく。
「あ、売れたんだ」とつぶやいて、しまったと口を押さえる。
お気に入りの深緑のリュックがなくなっていたので、つい口に出してしまった。
「あぁ、あのリュック?さっき売れたんだ。また作っておくけど」
あのリュックの匂いが好きなんだもんね、とケイは微かに笑った。
「匂いが好きなわけじゃありません…」
言い訳をしたが、確かにいつも手に取って匂いを確認していた。
見られていたとは!
コッソリとしてたつもりだったのに。
小春が初めてあのリュックを見たのは九ヵ月前だ。
売れるたびに新しいものに入れ替わるが、なぜかあのリュックの匂いは特別に感じる。
思い入れがそう感じさせているのかもしれないけれど。
いつか買いたい。それが小春の目標だ。
あのカバンを買うためにはしっかりと仕事をしないと。
小春は、改めて85000円への道を決意した。
ケイがちゃんと食べ進んでいるのを確認して、「じゃあ戻りますね」と声をかける。
「ありがとう」
微笑むケイに、手を振って部屋を出た。
来るときは少し寒かったが、帰りはそこまで寒くない。
足取り軽く給食室に帰った。