こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~

「もっとゆっくりしてきていいのに」
春乃がからかうように言ってくる。

「ただの配達だから」
何でもないように振る舞うと、春乃はニヤニヤしながら、ふーんと言う。

なによ、と言いながら、「春乃、先にお昼食べて」と話をそらした。

『ただの配達だから』が言い訳なのはわかっている。

『火・木・土』はケイが来るかどうかを常に気にして、来ない日はいそいそと配達する。
それ以外の日はケイに何を食べさせようかとメニューに悩み、何度も試作を繰り返す。

つまり、小春の毎日は『ケイにご飯を食べさせる』ことが最重要課題になっているのだ。

もちろん調理をしている時は、お客様のことを考えて一生懸命に作っている。
でも、ケイもお客様の一人だ。

小春は『ケイは大事なお客様』という考えに満足していた。

ケイに対する特別な気持ちに名前をつけると、身動きが取れなくなってしまう気がして怖いのだ。

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