こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
「おい、茶碗どうするよ?」
源基がシフォンケーキを頬張りながら訊ねた。
給食室にはご飯茶碗がない。今は白い小ぶりのボールにご飯を入れて、味噌汁もスープカップで出している。
全部備品で済ませているのでしょうがないが、『ご飯茶碗と汁椀が欲しいよね』と春乃と話しているのを聞いて、源基がご飯茶碗を焼いてくれると言ったのだ。
「デザインの相談をしたいから、次の月曜どうだ?」
月曜日は『こばとヴィレッジ』がお休みなのだ。
「私はいいよ」と小春が言うと、「私ダメだー」と春乃が言う。
「じゃあ、またにしよ…」
「小春だけでも構わないけど」
言いかけた小春の言葉を、源基が勢いよく遮った。前のめりで、さらにグイグイ押してくる。
「俺が一緒に考えてやるから。それに、小春がメシ作ってるんだから、小春の好きなデザインでいいだろ」
「うーん、でもお店で使うものだから二人で考えたい」
「……そうか?」
源基の勢いがシュルシュルとしぼんでいった。
「うん。源ちゃん、ありがとう。お茶椀急がないから、ゆっくりでいいよ」
にっこりと小春が笑うと、「……わかった」と源基は力なく答えた。
源基が帰っていくと、「不憫な男だねぇ」と春乃が首を振りながら言う。
「何が?」
「そういうところが」
小春が「ん?」という顔をすると、「ま、それが小春だしね」と頭をポンポンと叩かれた。