こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
小春は時計をチラッと見た。
二時十分。今日もケイは来なかった。
全くもう、と思いながらお弁当を作り、エプロンを外す。
「いってらっしゃーい」
小春が「行ってくる」と言う前に、春乃がひらひらと手を振った。
一歩給食室を出ると、寒さにぶるっと震える。十二月が目の前に迫り、どんどん寒くなっている。
「さむさむ」と言いながら、今日も足早に『革細工Kei』に向かった。
引き戸の窓を軽くコンコンと叩く。
「コハルノ食堂でーす」
引き戸をガラガラと開けながら声をかけた。
中に足を踏み入れて立ち止まる。
「あれ?小春ちゃんどうしたの?」
サラが不思議そうにこっちを見た。
いつも小春がお弁当を置く作業台には、既にお弁当が広げられている。
ケイの口が小春と同じように『あっ』っと微かに開いた。
「お昼ご飯を買いに行けない日は、届けてくれてるんだ」
ケイはサラに説明し、
「ごめん。サラが急に来たんだ。言いに行けばよかった」
と小春にもすまなそうに言った。
『サラ』
ごく自然にケイは呼び捨てた。
「ケイってば、小春ちゃんに配達させてるの?」
何様のつもり?とサラは呆れている。
「ごめんね、小春ちゃん。この人放っておいたらご飯食べないもんね。私は店に来させて食べさせてるけど」
「い、いえ。私が勝手にしているだけなんです。スミマセン」
小春は早口にそう言うと、店を出ようとした。
「待って!せっかくだから、私がいただくわ。小春ちゃんのランチ食べてみたかったの」
「いや、俺が夜に食べる」
ケイが作業台から出てきて、小春から紙袋を受け取った。
「はい、ありがとう」
いつものように微笑みながら代金を手渡す。
「ありがとうございました…」
小春は頑張って笑顔をつくり、店を出た。