こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
「ごめん。灯りが見えたから、電気を消し忘れているのかと思って…」
ケイが驚いたように小春を見た。
「す、すみません。試作をしてたんです」
ずっと考えていた相手が突然登場したので、小春は動揺を隠せない。
「だいたい俺が一番最後になるから、園舎のカギを預かってるんだ」
警備員と兼業なんだ、とケイは苦笑いした。
「中に入ってもいい?」
行儀よく断ってから、入ってくる。
小春は久しぶりに間近で見るケイに胸がいっぱいになった。
「すぐに片づけますね」
「いや、大丈夫。すごく美味しそうな匂いがするね」
ケイはクンクンと鼻を動かした。
「ケイさん、今日もお昼ご飯は食べないままですか?」
「うん…」
小春は勇気を出して提案した。
「よかったら食べます?試作品ですけど…」
「いいの?」
食い気味に聞かれて驚いた。
よほどお腹が空いているのだろう。
言ってみて良かった。
小春はホッとして、食事の準備をした。
「私も一緒に食べちゃおうかな。いいですか?」
「もちろん」
ケイが優しく微笑んだ。
試作していたのは、鶏肉のトマト煮込み。
寒い時期は煮込み料理が喜ばれる。小春が作るものは野菜がたっぷり入っているのが特徴だ。
ランチの残り物もあったので、一緒に盛り付ける。
急場の夕食にしてはちゃんとしたものが出来上がった。