こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~

コーヒーを飲みながら、ぽつぽつとお互いの話をする。

ケイは、おじいさんが馬具職人だということ、おじいさんからもらった革のキーホルダーがきっかけで革職人を目指したことを話してくれた。

「革製品はちゃんと手入れをすると、何年でも使うことができるんだ。俺は今でもそのキーホルダーを使ってる。俺もそんな風に長く使えるものを作りたいと思ったんだ」

穏やかに、でも真剣な目で言うケイはとても素敵だ。

「小春ちゃんはどうして料理人に?」

問われて小春も料理人を目指したきっかけを話し始めた。

「小さなころ砂のおだんごを作って、おままごとをするのが好きだったんですけど、砂のおだんごは美味しそうな匂いもしないし、なんかつまらないなと思ってて。

その時、誰かに『おにぎりを作ってみたら?』って言われたんです。そこでおにぎりを作ってみたら、美味しそうな匂いがして、みんなにも美味しいって言ってもらえて。料理って楽しいなと思ったのがきっかけです」

「その当時から匂いにこだわりがあったんだね」

ほんとだ!と驚く小春を見て、ケイが珍しくハハハと大笑いをした。

「前から思ってたんだけど、夏川小春さんっていう名前は、夏なのか春なのか迷う名前だよね」

「ケイさん。それは思ってても言っちゃいけないことです。夏川っていう名字に、小春っていう名前をぶつけてきた親の気持ちが本当によくわかりません」

早く名字を変えることが目標なんです、と拳を握って訴えた。

「そう」

優しく微笑まれて、胸がドキッとした。

「何の予定もないのが悲しい所ですけど」
慌ててごまかす小春を、ケイはさらに優しい目で見た。

小春は焦った。

『早く結婚したい』という意味に取られるようなことを、よりにもよってケイに言ってしまうなんて。

「そう言えば、サラさんと仲良しなんですね」

何か言わなきゃ、と焦る気持ちで、気づくとそう聞いていた。

< 31 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop