こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
土曜日のランチタイム、正午を少し過ぎた時間に源基がやってきた。
「あぁ、腹減った。今日のメニューはなんだ?」
「源ちゃん、いつもお腹空かせてるよね。育ち盛りでもないのに」
春乃が呆れながらお茶を出すと、「うるせー。飯大盛りで」と源基は開き直った。
「なぁ、知ってるか?サラさんたち結婚するらしいぞ」
「え!?そうなの?」
「もう長いみたいだからな。結婚してもヴィレッジは辞めないみたいだけど」
「幼なじみだもんね。でも、源ちゃん、意外と事情通だね。小春より敏感かも。だって、小春は知らなかったでしょ?サラさんたちのこと」
春乃はからかうように言った後、返事を返さない小春を不思議そうに見た。
「小春?」
「つ、つき合ってたのは知ってるよ」
「えっ!小春はそっち方面には疎いから、絶対知らないと思ってた」
意外―、と春乃は目を丸くしていた。
「ヴィレッジの仲間同士の結婚だから、みんなでお祝いしたいよな」
「そうだね」
「ヴィレッジで披露宴とか楽しそう」
「お!いいかもな」
二人の会話が徐々に遠くなっていき、小春は一人取り残された。
『ケイさんが結婚する』
いつかは、と思っていたけれど、その時は予想以上に早く来た。
ズキズキと胸が痛み、小春はシャツの胸元をギュッと握った。
真剣な顔で革を裁断するケイさん。
嬉しそうにご飯を食べるケイさん。
いろんな顔が思い浮かび、小春はエプロンの端で目元をスッと拭った。
ちゃんと「おめでとう」を言えるだろうか…
「おーい、腹減った」
源基の声が聞こえ、小春はハッとした。
「ごめん!すぐ出すね」
小春はもう一度目を拭うと、おかずを盛り付けていった。