こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
「じゃあ、お先にー」
「お疲れ様、また火曜日ね」
帰宅する春乃を見送った後、小春はしばらくボーっとしていた。
とても帰る気になれない。こういう時、実家暮らしをしているのが仇になる。
小春の家はいつも賑やかで、一人で孤独に傷心を癒す場所など存在しないのだ。
仕方ない。冷蔵庫の整理でもするか…
小春は厨房にある大型の冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の左半分はサラが使っている。整然と整えられたそちらのスペースには、小春が見たこともない食材や調味料が入っていて、それを見て一層気分が落ちた。
小春が作るものは家庭料理の延長線上にあるものだが、サラが作るものは本物のシェフが作る料理だ。
料理でも負けてるよね…
はーっと大きなため息が漏れた。
作っているもののジャンルが違うので、比較するのもおかしいはずなのに、今の小春にはサラにまつわる全てのことが痛い。
『こばとヴィレッジ』やめようかな…
今まで一度も考えたことがなかったことまで、頭をよぎる。
最低だ、私。
小春は頭を振って、冷蔵庫から食材を取り出した。
料理と私事を混同するのはよそう。
こんなことでは、来てくれるお客様にも春乃にも申し訳ない。
よしっと気合を入れて、もう一度エプロンをつけた。