こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~

小春は、十九年前に『こばと幼稚園』を卒園した。
実家を出ることもなく、県内の調理専門学校を卒業後、大手のカフェチェーン店に就職。今は駅ビルに入っている店舗で調理師として働いている。

チェーン店なので、決められた料理を決められた味付けで出すだけ。
アレンジは厳禁。

働き始めてからずっと何の疑問もなく調理してきた小春だが、最近自分の味というものを追求したくなってきた。自我の芽生えってやつだ。もう二十五歳だけど。

そんな時に、『こばとヴィレッジ』の給食室カフェの話を聞いた。
『火・木・土』『水・金・日』の二店舗入れ替え制。つまり週三回の営業だ。

一日置きなので準備もしっかりとできる。
自我の芽生えた小春には、とても魅力的な話ではないか!

早速、園長先生に問い合わせてみたが、「今は募集がないんだよ」と残念そうに言われ、一旦諦めた。でも、三月末に片方のお店が辞めることになったらしく、空きがでたのだ。

「見に来るかい?」と園長先生から連絡を頂いて、小春は今『こばとヴィレッジ』にいる。
どうか出店できますように、というすがる思いでポスターの〝こばと〟に頭を下げていたというわけだ。

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