こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
「灯りがついてたから、今日も試作してるのかなと思って見に来たんだ」
「すみませんでした。変なところをお見せして」
「彼も妙なことはしないだろうけど、自分に好意がありそうな人を不用意に近づけちゃダメだよ」
「……そんなこと、考えたこともありませんでした」
俯く小春に、ケイは苦笑いで、気づいてないのはキミだけだよと言った。
「立ち聞きみたいなことしちゃって悪かったけど、彼のことは本当にいいの?」
ケイにだけは聞かれたくないことだった。小春は顔を見られないように、コクっと頷く。
ケイは、「そうか…」とつぶやくと、ちょっと待っててと給食室を出て行った。
小春がゆっくりとコーヒーを飲み、厨房の片づけを済ませても戻って来ない。
もう帰ろうと、諦めてエプロンを外したところに、ケイが戻ってきた。
手には大きな巾着型の袋を持っている。
「はい、これ。三月が誕生日だって聞いて、プレゼントを作ってたんだ。急遽付け加えることができたから、待たせてしまってごめん」
「えっ?私に?」
そう、開けてみてとケイは促した。
小春はおずおずと袋を開け、中身を取り出した。
深緑のスクエア型のリュック。
小春がいつか買おうと目標にしていたカバンだ。
「いただけません!こんな高価なもの!」
小春はびっくりして、ケイを見た。
「もう名前掘っちゃったから、受け取ってもらえると嬉しいんだけど」
ケイは小声で言って頬を掻いた。
小春はリュックの裏を確認する。
『K』という刻印の横に、『KOHARU.S』と彫られていた。
「S?」