こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
小春の名字は『夏川』なのに。
春乃は『隅田』なので『S』だけど…。
もしかして『澤田』の『S』と言われたらシャレにならない。
小春は複雑な思いで、ケイを見た。
「そう。その部分を今付け加えてきたんだ。早く名前を変えたいって言ってたから勇気を出して」
またぼそっとケイは言った。
それでもまだ複雑な顔をしている小春に、ケイも眉をひそめた。
「あの一応聞くけど、俺の名前知ってる?」
「ケイさんですよね」
当たり前でしょ、とケイの顔を見る。
「いや、フルネームで」
「フルネーム?」
そう言えば、名字はなんだろう。
はて、と斜め上を見ながら考える小春を見て、ケイはがっくりと肩を落とした。
「最初挨拶に来てくれた時に名刺渡したよね」
「はい、いただきました」
合皮の名刺。もちろん大事に取ってある。
「今ある?」
うんと頷いて、カバンの中のカード入れを取りに行く。
『革職人 Kei』と書かれた名刺を取り出して、はい、とケイに見せた。
「裏があるの気づかなかった?」
「裏?」
ひっくり返してみると、そこには『革職人 桜木慶』と書いてあった。