こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~
他のお店をぜひ見て帰って、と言われたので懐かしい園舎の中を歩き始めた。
お部屋の入口、クラスの名前が書かれていたプレートにはお店の名前が書いてある。
「Jolie(ジョリー)」と書かれたお店はアクセサリーショップ。
「琥珀堂(こはくどう)」は絵のギャラリーだ。
それぞれお客様が何人かいて、まずまずの賑わいだ。
小春が幼稚園時代に過ごした『すずめ組』のお部屋の入口には、『革細工Kei』と書かれたプレートが入っている。
当時の思い出に誘われて、部屋の中に足を踏み入れた。
革製品のいい匂い。
その匂いだけで、小春はここに来てよかったと思った。
革そのものの匂い?ワックスの匂い?
よくわからないけれど、革を扱っているお店は独特のいい匂いがする。
小春はいわゆる匂いフェチだ。物限定の。
本や新品の靴の匂いも大好きで、本屋や靴屋には用事がなくてもフラフラと引き寄せられる。
革の匂いもすごくいい。
陳列されているカード入れを手に取って顔に近づけてみた。
いい匂い。
小春は大いに満足した。
商品が並ぶ棚の向こうでは、職人が作業をしている。
背中を丸め、黙々と商品を作っている彼は、フワフワというかもじゃもじゃの髪に丸い眼鏡だ。
ほっそりとした体は、『ちゃんと食べてるの?』と聞きたいくらい薄かった。
ちょうど革を縫っているところだったので、興味津々で見学する。
シュッという針を通す音、ギュッと糸を引いた時の革の擦れる音もいい。
へー。ミシンだけじゃなくて手縫いの部分もあるんだ。
物が作られていく過程は見ていて面白い。
ワクワクしながら見ていると、職人は手を止めて振り返った。