こばとヴィレッジで夢を叶えましょう~ある革職人の恋のお話~

「何かご入用ですか?」
柔らかめの声で淡々と言う。

「い、いえ。すみません。興味があったもので…」
「オーダーメイドもできますので、気になるものがあったらどうぞ。名前も入れられます」

そう言うと、職人はまた作業を始めた。

客商売にしてはあまりにもそっけない気がするが、『ご自由にどうぞ』というスタンスは有難い。
小春は再び店内の商品を見て回った。
ブックカバー、携帯ケース、栞なんてものもある。
ふと、壁に飾られたカバンが眼に入り立ち止まった。

深緑のスクエア型のリュック。

縫い目が表に出ていて、いいアクセントになっている。
小春はステッチが好きだ。しかもリュック好き。
今愛用しているカバンもリュックだが、いつか本革のいいものが欲しいと思っていた。

手に取ってみると、しっかりとした造りであることがわかる。
背中の部分に『K』という字が彫られているのが、この店のブランド名なのかもしれない。
値札を見ると『85000』。

85000円!高っ!

すごすごと返そうと思ったが、そっと匂いを嗅いでみる。

眼を閉じて深く息をすうと、やっぱりいい匂い。
高いものだけに匂いもいい気がする。
しばらく堪能して目を開けると、職人とバッチリ目が合った。

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