十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
第3章 別れるためのピンキーリング
「コーヒーで、いいか?」
「うん……」
「待ってろよ」
「……分かった」

私を捕まえた理玖は、店の入口からは見えなかった奥のソファ席に座らせてから、更に奥の部屋に入っていった。
それからすぐ、コーヒーのいい香りが私の鼻をかすめてきた。
あの頃、夜通し作り続けるために、一緒に向かいあって飲んだ、思い出の香りだった。
その香りを、深呼吸で思いっきり吸い込みながら、私は改めてじっくり室内を見渡してみた。
照明も、置かれている家具も、その全てが私の好みのアンティーク。
初めて来たはずなのに、どこか懐かしい感じに、涙がこぼれそうになった。

どうして、こんな空間にしちゃったのだろう?

理玖の好みは、もっとアートで、モダンな雰囲気なのも知っていたからこそ、余計に切なく感じた。
< 29 / 89 >

この作品をシェア

pagetop