十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
最初は、明日にでもすぐに入籍してもいいと思った。
そうしないと、私の決意が鈍りそうだったから。
でも、中野さんの主張はこうだった。

「せめて、お互いの両親にちゃんと挨拶してからにしよう」

中野さんは、いつも私を納得させるのが上手だったから「確かにな」とすぐに思えた。
それに……少なくとも、私の親には会わせてあげたかった。それも、なるべく早く。
すぐに私たちはそれぞれ実家に連絡を取り、挨拶の日取りを決めた。
私の親はすぐに日程を確定させることができたが、中野さん側の日程決めはとても難航した。
ご家族が皆働いているとのことで、全員が揃う日程がなかなか見つからなかったから。
かろうじて、ようやく見つけた日付は、5月の下旬。
私のタイムリミットのギリギリだったが、選択肢は他にはなかった。

こうして、私と中野さんの入籍日は5月31日に決めて、その日にウエディングフォトだけ撮ろうという話になった。
記念になるものは、どうしても必要だったから。

ドレスやタキシードはレンタルで良い。
だけど、結婚指輪をレンタルするわけにはいかない。

「安物でいいんじゃないですかね」

と私は提案した。
お互いの左薬指にさえあれば良いのだろうと思ったから。
でも、中野さんがそれにも待ったをかけた。
この結婚のための指輪を買ったと分かる、領収書が必要とのことだった。
もし何も聞かされていなければ、何故そんな主張をするのか分からなかっただろう。
でも、中野さんの事情を考えると、それも仕方がないとも思えた。

こうして、次の休みに私と中野さんは5月30日までに結婚指輪を作ってくれるお店を探すことになった。

皮肉なもので。
結婚するための行動の結果、私は10年前の高校時代に強く惹かれた彼と、再会してしまうことになる。

恋したけど、最後には憎んでしまった彼……如月理玖(きさらぎりく)に。
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