十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
「やっぱり、表参道には良さそうなお店があるね」
「そう……ですね……」
「美空ちゃんは、どこのお店がいいとか、ある?」
「そう……ですね……」

窓越しに商品を見てみる。
どれもこれも、ダイヤやルビーなど宝石がキラキラ輝いていて、とても綺麗だと思った。
けれども、自分の左薬指にそれらがあることは、とてもイメージできない。
きっと、結婚に夢を見られる女の子たちであれば1度は夢見るのかも知れない。
大粒のダイヤも、高級な宝石も。
かつての私も、そんな宝石やアクセサリーに夢中になった。
特に指輪には、強い思い入れがあった。

愛する人と、ずっと一緒にいる。

永遠に結ばれた絆を、持ち運び続けられる宝物。
まるで、星みたいな、特別なアクセサリーが指輪。
そんな事を考えていた、可愛らしい時期も確かに存在していた。

「中野さん、もう少し、見てみませんか?」

本当は、そこまでこだわる必要はない。
予算と期限が合う店さえあれば良い。
優先順位はスケジュール。それ以外は二の次。
それがこの結婚をする上での絶対的なルールだった。
でも、どうしてだろう。
今ここで指輪を買う店を決めてはいけないと、思ってしまったのだ。

「あの、中野さん」
「どうしたの?」
「あそこの裏道にも行ってみませんか?」
「どうして?」
「……裏道にも、いいお店があるらしいと、聞いたことがあるので」

嘘だった。
正確に言えば、いいお店があるのは雑誌では見たことがあるが、せいぜいカフェくらい。
指輪が売っているお店なんか、知らない。
でも、裏道をどうしても歩きたかった。
歩かないといけないと思ったのだ。

「そうだね、穴場のお店があるかも知れないし、行こうか」
「はい……」

私は、少し早足で歩く中野さんの後を、いつもよりも頑張って早く歩こうと必死に足を動かしながら考えていた。

きっと、ただ時間が欲しいだけなのだろう。
それだけだろう、と。

だけど、この時の私の選択が無ければ、彼との再会はなかっただろうから、運命とは分からない。
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