十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
裏通りを入ってから5分後。
建ち並ぶ白いお店の合間に、それを見つけた。
春の空色の壁に、金色の文字で書かれた「Bella stella」の文字が、シンプルに美しいと思った。
一見すると、何のお店か分からなかった。
もし、中野さんだけならこの店の前をあっさり通り過ぎただけだっただろう。
だけど、私はあまりにも気になってしまったので、窓から中を覗いてみた。

「綺麗……」

私の目に入ったのは、飾られていたアクセサリーの数々。
ペンダントにプレスレット、イヤリングにアンクレットが、シンプルなガラスケースの中で光り輝いていた。

さっきまで見ていた有名なお店のアクセサリーも確かに素敵だった。
だけど、今私が感じている程の感動はなかった。
どうして、こんな細工ができるのか。
どうして、こんなアイディアが生まれるのか。
どうして、こんなにも宝石が生きているように見えるのか。
素材も宝石も、ちゃんと良さを活かした、見るだけで身につけてみたいと思わせる衝動を受けた。
私は、先に行く中野さんのことなどすっかり忘れ、カフェモカ色の木製の扉を開けた。
カランカランと、高い鐘の音が、私が来訪者であることをこの店の主に伝えてくれる。

私が大好きな春の空の色に、カフェモカの色。
このお店が、私にとって特別なお店になるだろう予感に、心臓がはち切れそうだった。

でも、どうしてここまで私好みのお店があったのか。
少し考えれば、その疑問まで辿り着くことはできただろう。
でも、そんなことを考える間すら与えないほど、私の本能が私を動かした。

この店に入れ、と。

「いらっしゃいませ」

店の奥から、中野さんよりは低く、落ち着いた、耳馴染みの良い声がした。
顔を上げたタイミングで、店の奥から出てきた人と目が合ってしまった。

「嘘……」
「美空、か?」

高校時代のほとんどを共に過ごした、初めての彼氏だった如月理玖が目を丸くして私を見つめていた。
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