十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
退院までの1週間、私は病院の手厚い看護を受けながら、これからの赤ちゃんのお世話のことを色々教えてもらった。
授乳ケアだけでなく、沐浴指導や体のケア方法を教えてくれる講座も受けられた。
しかも、ご飯もレストランのフルコースかと聞きたくなるくらい、美味しかった。
この病院を見つけてくれたのも、理玖だった。
仕事柄著名人との繋がりも深い理玖は、出産経験がある人ほぼ全員例外なく

「どこが1番、妻を安心して預けられるか」

と質問しまくったらしい……。

その結果、1番人気だったこの病院にお世話になることに決まったというわけだ。
本当に……理玖の調査力は侮れないな……と思った。
そんな理玖は、出産当日こそ立ち会いをしてくれたが、退院間近になっても病室には現れない。

「旦那さん、どうしたんでしょうかね?」

そう心配してくれる看護師さんもいたが、私は薄々その理由に気づいていた。

「さあ、どうしたんでしょうねー」

私は、そう聞かれる度に含み笑いで返事をしていた。
それから、一緒の部屋で眠る生まれたてほやほやの娘に

「パパは今、頑張ってるみたいよー」

と、ふわふわのほっぺに触れながら話しかけた。
その度に、理玖と私の遺伝子を掛け合わせた愛しい我が子がふにゃんと笑ってくれるので、体の痛みがその瞬間だけは消えてなくなるほど幸せな気持ちになった。

「でも……早くパパに会いたいねぇ……」

私は、出産直後に唯一理玖がこの娘に会えた時に触れた、左の薬指を触りながら理玖を思っていた。
そんな時に病室の扉が開いた。

「美空……!」
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