俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
まだペタンコのお腹を両手で触れた。実感なんてないけど、ここに赤ちゃんが本当にいるんだ。
もし、俊也さんとの子供だったら産めないよね。名前も知らない人の子供でも困るんだけど。
「こーら!走っちゃ駄目って言ってるでしょう!?」
ハッと顔を上げると、2、3歳の子供が走り回るのをお腹の大きい女の人が注意していた。他にも、小さな赤ちゃんを連れている女の人もいた。愛おしそうにお腹を撫でてる人もいた。
赤ちゃんの泣き声。小さな子の笑い声。妊婦さん達が楽しくお喋りする声が聞こえてくる。
来院した時は気付かなかったけど、待合室は柔らかくて幸せな雰囲気に包まれていた。
俊也さん、奥さんと離婚してくれるかな。
駄目だ。彼の奥さんも子供が出来たって噂なのに。1人で育てる事になるのかな。
それとも──、"子供は下ろしてくれ"って言われるのかな。
あぁ、私だけ場違いだ。なんでこんな所に来てしまったのだろう。
病院受診しただけなのに、仕事より疲れた。
バスを降りて、アパートまでの道のりがいつもより遠く感じる。
ため息を吐きながら階段を上がると──、
「遅っせーなぁ、待ちくたびれたんだけど?」
男の子が1人、部屋の扉に寄りかかっていた。