俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~



「俺の母親はシングルマザーとして俺を育ててくれたんだ」

「……うん」

「シングルって言っても、養育費と住むところも与えられてたから、かなり恵まれたシングルだよな」


ゆっくりと吐き出される春多くんの言葉が、静かに車内に落とされていく。



「大きくなったら俺も立派な医者になるんだよっていつも言われてたけど……、俺もアイツに認められたかったんだと思う。いつも俺の味方で優しくて応援してくれたんだ。て、マザコンだと思う?」

「そんなことないっ」


春多くんがフッと笑うから、慌てて首を横に振った。



「俺が大学1年の時に事故にあったんだ。いつも通りに朝家を出たんだけど、俺がスマホを忘れてさ。走れば間に合うと思ったんだろうな。追いかけてきたんだよ」

「……」

「後ろで凄い音がしたんだ。振り返ったら、なんか事故が起こってた。でも、まさか自分の母親の事故だと思わなかったからそのまま大学に行ったよ。で、抗議の途中でアイツが俺を呼びにきた」

「……」

「夜遅くまで飲んでた、居眠り運転の乗用車が歩道に突っ込んできたんだって。それで頭を強く打って外傷性脳出血おこして、後遺症がまだ残ってるんだ。もう5年も前の話だよ」


助手席に乗る私は、春多くんの話にただ頷くことしか出来なかった。





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