俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「驚いたよな」
「うん」
施設のロビーのベンチに並んで腰掛ける。
隣に座る春多くんが、紙コップのジュースを"はい"と渡してきた。
「俺だって分かる時もあるんだけど」
「でも、宗一郎さんって呼んでた。何で春多くんの事、お父さんだと思ってるの?」
「あんたも知ってるだろ?否定すると凄い怒る患者がいるの」
「……え、でもまだ若いのに……」
フッと口元を緩めて、私の頭にポンと手を乗せた。これじゃ、私の方が慰められてるみたい。
「ごめんな。ちゃんと説明しておくべきだったけど、ちょっと期待してた。もしかして、珠里さんを普通に紹介して、普通に"おめでとう"って笑ってくれるんじゃないかって……」
春多くんが右手で顔を伏せるから、落ち込んでるって分かるから、何も言葉を返せなくなる。
「外傷性の脳卒中による左半側麻痺。手術とリハビリでかなり良くなったんだけどね。あの事故の後 急性期病棟からリハビリ病院に転院して、最初は経過良好だと言われてたんだ。でも時々、何かおかしくて」
「…………」
「確かにMRIでは脳の損害部位は見られたけど、高次脳機能障害では軽度半側無視しかみられてなかった。でも、徐々に相貌失認、健忘症状の出現が疑われてさ。もう一度、脳の精密検査を実施して、最終的に外傷性脳損傷による血管性認知症って診断されたんだ」
窓の外に視線を向ける春多くんが、真剣な表情で自身の母親についてズラズラと専門用語を並べて説明していく。
すごく真面目な話をしている筈なのに。
どうしよう、半分以上かなり意味分かんない……。