俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「あの、私からもお願いがあるんですけど……」
これは余計なお世話かも知れないけど、でも春多くん1人じゃ重すぎるから。
あの日の、春多くんのお母さんのところに行った帰り道。
「お父さんにはどんな反応するの?」って聞いたら、「日によって反応違うけど。誰ですか?とか、ちゃんと名前を呼ぶ時もあったかな?でも今はもう見舞いなんか行ってないよ」と言っていた。
平気そうな顔をしていたけど、やっぱり行って欲しいんだと思う。
「なんだい?」
「春多くんのお母さんに、会いに行って貰えませんか?」
***
「春多くん、これどうする?」
「洋服類はこっちの袋に入れといて捨てるから」
「えっ、捨てちゃうの?」
「年齢的にも着ないだろ、これはさ」
なんて、真っ赤な派手なコートを手に持ち躊躇なく袋に閉まっていく。
私達が住むマンションの3つある部屋の1つ。
同居人の部屋と聞かされずっと入る事が出来なかったスペース。
そこは事故の日まで一緒に住んでいた、春多くんのお母さんの部屋だった。ドレッサーとベッド、クローゼットと小さな飾り棚。と、昼間動き出すルンバ。
事故の後、配置も全く変えていないらしい。
「いっぱいあるね」
「大変だったら無理しなくていいよ」
「全然、大丈夫!」
春多くんの声が少し弱まるから、右腕に力コブを作って見せると「全然ねーじゃん」と笑われた。