俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~

春多、道端で拾われる

(最初の出会いの頃)





──大きくなったら、春ちゃんもお父さんみたいな立派なお医者さんになってね!






4度目の春が来た。

当たり前だった全ての日常が壊された日。
1度しか振り返らなかった事故の人集り。自分には関係ないと思い込んでいた。


大学6年の臨床実習(ポリクリ)で多忙な毎日を過ごす日々。
暇さえあれば文献に目を通し知識を頭の中に詰め込んで、余計な事を考えないようにしていた。


実習からの帰り道。今まで立ち止まる事なんてなかったのに、周りと比べて少し新しい歩道のガードレールが目に入る。
そうだ。丁度この場所で母親の事故が起きたんだ。そう気が付くと、動けなくなった。


母親の事故については、アイツが弁護士をつけて裁判を起こし、運転していた男性は運転致死傷害の有罪となった。けど、初犯のため実刑はなく、結局3年の執行猶予付きの判決という結果だった。その後、後遺障害認定は受けたけど、それで元の生活に戻れるわけでないのだから何の意味もない。


不自然に色が違うガードレールに寄り掛かって、ぼんやりと顔をあげて眺めてみた。薄雲に隠れてぼんやりと月明かりだけがうつし出され。遠く大学病院とコンビニの看板の明かりが目に入る。

スマホを忘れた自分を責めたり、加害男性を責めた。俺がスマホを忘れなければ、家を出る時間が数分ずれていたら……、いくつものたらればを想像して色んな葛藤を繰り返してきた。
ただの精神的逃避でしかないのは理解していたし、どんなに考えたところで現実は何の変化もない。

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