俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
1人であのマンションに帰らなければならないのか。周囲の建物に比べて突出して高いマンションに目を向けて、小さな息を吐いた。
5月にしては冷たい空気が頬を掠めていく。
車のクラクションの音や、飲み会だったのか若い奴等の笑い声が耳に入ってきたけど、まるで自分が別世界にいるように感じた。
レポートの続きとデイリーノートと明日の予習、指導医から出された課題。やる事は沢山あった筈なのに。
その場所で、どれ程の時間 虚無な状態のまま立ち尽くしていただろうか。
───ぐにゃり。
突然、背中に衝撃をうけた。
いつの間にか寝転がってた俺を誰かが踏んだのだと、すぐ理解出来た。
「………え?…人?……し、死体???」
女の人の声がした。マジかよ、女に踏まれたのかよ。
「ふはは、そんなわけないかー。生きてますかー?」
「……」
「こんなとこで、寝てたら自転車に轢かれますよー」
ほっとけよ。ゴロンと寝返りをうって、はじめて頬が濡れている事に気が付いた。
自分でも驚いて咄嗟に顔が見えないように、俯いた状態で塀に寄り掛かった状態で座り込む。
「ねぇねぇ、風邪ひいちゃうよー」
「……うーん、」
「ねぇ、帰らないの?終バス逃しちゃったー?」
その女は俺を揺さぶったり、なんとか起こそうとするけど無視だ無視。寝たふりを決め込んだ。早くどっか行けよ、内心そう思っていた。
「うち、来る?」