俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
あ、可愛い──。
ふと顔をあげた。胸元くらいまであるふわふわの髪。頬は赤く染まり、大きな瞳はトロンと水気を含んでいる女の顔が見えた。
「うん、行く」
即答。そんなの決まってるだろ。
この女が完全に酔っぱいだという事はすぐに分かったけど、なにより顔が好みだった。
どこかで見たような。見覚えのある顔だけど、今そんな事はどうだって良かった。
今、あの部屋に戻るよりは──。
「お姉さん家どっち?」
むくりと立ち上がって隣に立つと、女の方から腕を絡めてきた。
相当出来上がってるらしく、ふらふらと今にも崩れ落ちそうだから、仕方なく彼女の腰に手を回し支えながら歩き出す。
「へへへ、どっちでしょう?」
「あっち」
「ぶっぶー、あそこでーす!」
顔は可愛いんだけど、こいつ頭大丈夫かな?
テキトーに病院とは反対方向を指差せば、女は視線を宙に舞わせて空高く人差し指を上げてみせる。
「お姉さん、ちょっと酔い過ぎだろ?」
「全然!!全っ然、酔っぱらってなんかいませーん!」
「俺、やっぱり帰……」
「やだっ、行かないで」
「あぁ?」
「うぅ、やだやだ置いてかないで」
「……」
「1人はやだよぉっ……、」
「俺も、1人は……やだ」
ぽつりと出た台詞は、酷く重くて痛くて、胸にズシリとのし掛かる。