俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「えーと、春多……くんは、こんな広いところに1人で住んでるの?」
「最初から1人暮らしだったわけじゃねーけど、」
嫌味まじりの言葉を吐けば、微妙な返答が戻ってくるから、ツッ込んでいいのか分からなくなる。
前は誰かと住んでたのか。金持ちは金持ちで、色々複雑な事情でもあるのだろうか。
と、小さなダイニングテーブルに荷物を置く男の子を見て考える。
「キッチンも風呂もテキトーに使っていーから。風呂は使ったら軽く洗っといて」
春多くんが部屋の中を淡々と案内していく。
男の子の1人暮しにしては、よくいえば綺麗だけど、生活感が無さ過ぎる空間。
「昼間はルンバが回るから、床に物は置くなよ」
「あ、うん」
「この部屋、使っていーから。あ、でもベッドねーな……どうすっかな」
3つある部屋の1つ。
扉を開けると、フローリングの床が広がっているだけで。本当にびっくりするほど物が無かった。
あるとしたら、びっちりと難しそうな本が並ぶ天井まで高い棚と昼間起動するという黒色のルンバだけ。
「あ、私はいーよ床で」
「いや、俺のベッドでいいか」
──オレノベッドデイイカ──
覚悟はしていたけど、一瞬頭の中でその台詞がフリーズする。
そうだよね、夫婦になるんだもんね。当たり前だよね。