俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「ねぇ、鴨ちゃん。今日、飲み行かない?」
定時に上がったと同時に声をかけられる。
「あー、ごめん。今日は予定が入ってるから」
「最近、付き合い悪いなぁ。あ、もしかしていい感じの人できたとか?」
唇を尖らせるのは、同じ年の真木ちゃんだ。黒のショートボブの髪型が、童顔の彼女をより若く見せる。
「えー、やだ。そんな人いないし」
「1人暮らし始めた頃から怪しいんだよな。寮のが安く住めるのにさー」
「ずっと憧れてたんだって、言ったじゃん。とにかく、今日はお疲れ様。また誘ってね!」
と言って、真木ちゃんより先に更衣室を後にした。
真木ちゃんは同僚の中では1番仲が良い。前は病院の寮も一緒だったから、よく仕事帰りに飲みに行くことも多かった。けど、誰にだって秘密の1つや2つはある。
病院から徒歩10分の1DKのアパート。
階段を上がって201号室の扉を開けると、誰もいないカーテンが閉めきった部屋が広がる。
「……ただいま」
ベッドにテレビとパソコン。私物は最低限。シンプルなハンガーラックに洋服と小物がちんまりと置いてある。
私が今住んでいるアパートの所有主は私ではない。彼のものだ。
この小さな部屋で、私は彼が来るのを待っている。