俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
小さなキッチンで鍋にシチューのルーを入れながら、真っ黒な画面のスマホに目を向けた。
まだ、連絡無し。忙しいのかな。
病棟診察の後、外来だから定時に上がるのは無理だろうな。
カチッと火を止めて、エプロンを外した。
1つに纏めていた髪どめを取って、胸元まであるグレージュに染めたばかりの髪を整えて、化粧もチェックする。
後は、彼が帰ってくるだけなんだけどな。
ローテーブルに顔を臥せてギュッと目を閉じる。
どれくらいたっただろうか──。
ガチャガチャと鍵を回す音がして、扉が開いた。
「ごめん、遅くなって」
「俊也さん、お帰りなさい」
「残業診察入っちゃって、やっと上がれたよ」
「今、シチューとパン温めます」
「いい匂いだと思ったらシチューかぁ。珠里のご飯美味しいから嬉しいな」
柔らかい笑顔。男らしい大きな手が伸びて、頭を優しく撫でられる。
香川俊也さん。36歳。大学病院に勤務する内科医。
彼には3年前に結婚した奥さんがいて、私とはこのアパートの中だけの内緒の関係だ。