俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「まだ親のお金で生活してるようなものだし。このマンションだって……。学生の分際で妊娠させたって思うかもしれませんが、俺、本当に珠里さんのこと心から愛してるんです」
驚きを隠せない私の後ろで、やけに誠実そうなトーンをした春多くんの声が続いていく。
「友人の真木さんには、心配かけてしまうかもしれません。でも、俺、国家試験も合格して、ちゃんと医者として働いて、大好きな珠里さんとお腹の子を絶対に幸せにします」
「……春多くん?」
この子の嘘混じりで演技臭い台詞なのに、騙されてしまいそうになる。
「そうなんだ、そういう成り行きがあったんだね。て、あれ……?春多くんがこんな凄いところに住んでる医学生で、どーこーかーでこの顔を見た事ことあるような……」
向かいに座る真木ちゃんが、頭の上にクエッションマークをつけて首を傾げた。
「あっ!!院長の孫……春多くんってもしかして、名字、河本?グループ実習きてたよね??」
「……やべー、マジか(小声」
「やっぱりそうでしょ?私の観察力凄いでしょ!?」
「真木さん、えーと。院長の孫が学生で妊娠させたっていうのは世間体が悪いので、出来れば内密で……」
真木ちゃんの叫び声に、春多くんが一瞬バツ悪そうな表情をみせて両手を合わせて頭を下げる。この子でも、そういうの気にするんだ。意外だな。なんて、この時は何も気にも止めなかった──。