俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「違う!偶然だったの。ミ、ミチさん家の帰りに偶然会って……」
「そんで、香川の方にぐらついたんだ?」
「ぐらついてなんか無い!俊也さんが旦那さんだったの…ミチさんの。私は、春多くんが……好きだって言ったじゃん!でも、別れるも何も、私、春多くんの奥さんでもなんでもないんでしょ……」
この子との関係に自信がなくて、不安が大きくなって、叫んでいた筈の声がどんどん小さくなっていく。
「あんたは俺の彼女だけど」
「え?」
一瞬だけ、柔らかい唇が口付けられた。
春多くんの顔が至近距離にあって、その幼さの残る顔立ちから目を反らすことは出来ない。
「ムカつく。香川の名前が出てきたの滅茶苦茶ありえねーんだけど。全部、俺に報告してよ」
ムーっと、不貞腐れるようにへの字になった口元。それが、彼への嫉妬からきたのだと思うと、胸がぐっと締め付けらた。
一端、離れた唇がもう一度口を塞いで、深くて乱暴なキスに切り替わる。
「……は、はる…」
春多くんの息も上がる。熱も上がる。
とろけるように甘いキスに、胸がキュッとなってもどかしくなった。
「ね、して……いいよ、」
「あー…、でも」
「私、あの日、全部覚えてないからっ。春多くんを思い出したい……」
断片的で朧気な記憶。輪廓がぼやけて曖昧で、何度も思い出したいと願った。
春多くんの存在を、私の中に確かなものにしたい。
───ガチャガチャ、ガチャッ
その時、突然 聞こえてきた玄関の鍵が開く音。
インターフォンも鳴らずに扉が開かれた。