俺の子でいいよ。~不倫関係にある勤務先の医者との子か、一夜だけ関係を持った彼との子か分からない~
「そういえばさ、香川先生って今✕✕市の◯◯病院に勤務してるんだってー」
「…………そうなんだー!?」
「優しかったのにさ、あんな噂のせいでさー。残念だなぁ」
真木ちゃんの続けられる言葉に一瞬息が詰まったけど、声が裏返らなくて良かった。
「……本当だよね!残念」
上手く笑えてるだろうか。
何も知らない彼女に胸がチクンと痛んだ。
そう、俊也さんは先月でこの大学病院を退職した。
ミチさんに流された匂わせ不倫のSNSのせいで居づらくなったのか、理由はハッキリ分からない。
その後、2人はどうなったのだろうか。
別れた、という噂は耳に入ってこないけど。
でも、夫婦としてやり直していて欲しい、と思うのは、甘い考えなんだろうな。
「鴨ちゃんもさ、お腹結構目立ってきたね!何ヵ月になるんだっけ?」
「先週で4ヶ月に入ったんだ!」
「えー、性別は?もう分かったの?」
「まだ。来月くらいかなーって先生が言ってたよ」
「鴨ちゃんもママだもんなー。私も早くベイビー欲しいよ!!」
「あはは!」
「そろそろ、ミーティングはじまりますよ!」
「「はーーーい!!」」
看護部長の声がして慌てて椅子から立ち上がる。
普通サイズのズボンが履けなくなったり、妊婦用の下着をつけるようになったり。前より自分が妊婦なのだと実感することが、日常の中で少しずつ増えていく。
8月──。
暑い暑い夏がやってきた。