明日のキミは。
明日のキミは。(side 久我)
彼女のことは、以前から知っていた。
大学の教員には同期というものは基本的に存在しないが、同年度に工学部の同じ専攻分野に採用された教員は俺と小田桐圭の二人だけだった。
ある時、小田桐に年の離れた妹がいると聞かされたのがきっかけで、いつも判断を迷わない男が妹のことではつらつらと悩んでいるさまが不思議で気になったと言えば気になった。
それから少しして、初めて酔っぱらった小田桐を家まで送った時、その妹に初めて会った。
目も合わせてくれず、逃げるように小田桐に隠れてしまったが、小田桐から彼女は『男性と付き合った経験がない』と聞いていたので、彼女を怖がらせないようにすぐに退散した。
だからきっと彼女は自分のことなど知らないだろうと思っていた。
けれどもなんだか、その時の彼女のことが日を追うごとに忘れられなくなってしまった。
自分のことを知らないままにしてしまったことをやけに後悔した。
全く明確な理由もなにもない、不可思議な嵌り方だった。