明日のキミは。
 そんなことを考えていると、先生はふっと息を吐く。

「どうしてそんなに慌てるかな。最初にキスを迫ってきたのはみくだったはずだろ」
「せ、迫ってませんって!」

 その言葉に思わず真っ赤になって顔を上げる。
 先生は目を細めてこちらを見ていた。

「そうだったか?」
「いつまでそれ、言われるんですか。もうしませんから忘れてください」
「忘れるつもりはないし、次もしたければいつでもどうぞ」

 先生は追い詰める言葉をさらりと吐く。
 私が悪いことをしたことを知っていて、それをいちいち追い詰めてくる先生は意地悪だ。

 一か月と少し前、『私が先生に迫った』と思われている。

 私が先生の方に倒れてしまって先生を押し倒す形になってしまったのだ。実際にそう思われても仕方のない状況ではあったのは確かだけど……。

 けれど、けっしてキスを迫ったわけではない。

 私は頬を膨らませて、先生を見る。

「意地悪。そういうとこ、兄に似てます。大学の先生ってみんなそうなんですか?」
「小田桐と同じだと思われているのは心外だな」

 私の兄を思い出したのか、釈然としない顔で先生が言う。
 私はそんな先生の顔を見て、思わず笑ってしまった。
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