月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
本編

1.酔った帰りに月の精引っ掛けちゃいました

 酒は人を繋ぐというもので。
 私が彼と知り合ったのは花見の会の帰りだった。

 桜が咲く大きな公園で仲間と楽しく飲み会をし、楽しく別れて駅から家まで帰る途中、近所の公園にも桜が咲いていることを思い出した。
 酔って浮かれた状態で、どうせなら一人花見も決行しようと思い付き、コンビニでビールを買う。一本、いや二本いっちゃう? 飲まなければ家に持って帰ればいいんだものね。
 で、ビール二本にチーカマ買って、公園に行ったら、彼がいた。

 Tシャツにカーディガン、ジョガーパンツ。足元はサンダル。気の抜けたコーディネートで、近所に住んでいるお兄さん感満載。それにも関わらず目に留まったのは、ひとえに彼の美しさ故だった。
 ベンチに座っている状態だけれど、スタイルの良さがひと目で分かる。綺麗な姿勢。地味服なのに、モデルの撮影と疑うくらいにキマっている。長い髪を無造作に一つに束ね、手には見たことのない謎な楽器。顔は俯いてなおかつメガネ掛けているのでよく見えないけれど、あれは絶対に美人だ。明かに男の人だけど、美人としか言いようが無い。え? 芸能人かなんかなの? すっごい眼福なんだけど。

「いつもここで、練習しているんですか」

 酔った勢いで話しかける。心の中で、おいおい私何やってるんだよ⁈ と言う声が聞こえたけど、アルコールが私を無敵にさせた。そしてそんな私を不審がるでも無く、彼が顔を上げごく自然な態度で答えてくれる。

「ここへは初めてだ。夜の散策を楽しんでいたら、お前に呼ばれた」

 わあ、やっぱり美人さん。って、え、

「私?」

 予想外の答えに驚いて、自分を指差し聞き返す。彼はにっこりと微笑むと、こちらが手に持っているコンビニ袋に視線を移した。

「酒があるなら、相伴させてくれ。下界で飲むこともそうそう無いからな」

 ナンパ?
 一瞬そんな言葉が浮かんだけど、声をかけたのは自分からだった。

「えーっと、どうぞ」

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