月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─

「水曜日の飲み会も今回で四回目を迎えたね」
「そうですね」
「実は先週でちょうど一ヶ月経ったんだけど、立花さんの用事があったから……」
「そうだったんですね」
「それで、まあ一ヶ月経ったことだし、そろそろ俺のことも分かってくれてきたんではないかと」

　俺！　そうか、飯島さん、俺っていうのか。今まで僕って言っていたよね⁈

「で、どうでしょう？　俺と付き合ってもらえませんか？」
「え、 あ、は、」

　はい。と言おうとして、急にのどが締まる感じがした。声が出ない。え？　どうした、私。
　焦って内心冷や汗ダラダラかいて、そうだ水を飲もうと思い付いた。けれどテーブルにあるのはコーヒーだけで、つい水と同じ勢いでそのカップに口を付けてしまう。そして案の定、やらかした。

「熱っ！」

　慌ててカップを振り落としそうになる。

「危ない！」

　がっと手を握られ、カップが固定される。そのまま近寄られ、膝と膝がぶつかった。

「大丈夫？　火傷していない？」
「すみません。大丈夫です」

　だけど、

「そう。良かった」

　握られた手から伝わる体温、至近距離から聞こえる飯島さんの声に、反射的にぞわりとした。

　あ、無理だ。

　すとんと、納得してしまった。私は、飯島さんと付き合えない。
　今まで散々頭で考えていたのに、将来設計シミュレーションしてきたのに、手を握られただけで全てひっくり返ってしまった。無理だ、って思ってしまった。いい人なのに、肌感覚で、駄目なんだ。
　分かってしまった。私が触れ合いのは、……ただ一人。