月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「申し訳ございません。ここで阻止をしなければ、このままお部屋にお篭りになられそうな勢いでしたので」
にこやかな笑顔のまま反撃され、暗月がチッと舌打ちした。ちょっと、それはどうなんだ、暗月?
「ではいったん、朔様をお預かりしても宜しいでしょうか」
「……」
私を抱える腕の力が一瞬強くなる。
「朔様にもご準備が必要です」
「……分かった」
渋々と暗月が了承し、そして私はようやくそっと降ろされた。
「朔、女官たちにしばらくお前を貸す。すぐに会えるから、我慢してくれ」
「暗月……」
なんだその言い方は? と思った途端、チュッと唇が触れ合った。
「う、っう……!」
ごく自然な動作で凄いことをやらかして、さらにやらかした自覚が無いのか、暗月は柔らかい表情で私を見ている。挨拶がチューって、外人か? 外人なのか⁈ しまった、人外の方だった!
叫び出したいけれどギャラリーがいる手前、反応も出来ない。僅かに口を押さえて暗月を睨みつけるばかりだ。羞恥で頬どころか耳朶まで赤くなってしまった。
「では朔様、どうぞこちらへ」
何故か女官さんが救いを差し伸べる様に話を切り上げてくれる。そして彼女たちの笑みは深まるばかり。その優しさにもぞもぞとした気持ちを抱えつつ、歩き出した。
「では待っているぞ」
まるで捨てられた子犬のような空気を漂わす暗月を後に、彼女たちに囲まれて私は屋敷の中へと入った。
◇◇◇◇
屋敷の中は黒くしっとりとした色合いの木の柱と白い漆喰、石のタイル貼りの床と、落ち着いた風合いで統一されていた。装飾の紋様だけが中華っぽさを醸している。デザイン的には日本の古代にも通じる東洋趣味だけれど、抑えめの色合いでモダンにまとまっていて、とても趣味がいい。
そんな屋敷の中を静々と奥に進み、一つの部屋に案内された。
最初に目についたのは、広々とした部屋の真ん中に置かれた寝台。横のワゴンにはいくつかの華奢な小瓶と、畳まれた布が重ねられている。寝台の奥、真正面は引戸で大きく開け放たれており、庭に面していた。これはまるで、高級リゾート地のホテルに併設されたエステティックサロンだ。
にこやかな笑顔のまま反撃され、暗月がチッと舌打ちした。ちょっと、それはどうなんだ、暗月?
「ではいったん、朔様をお預かりしても宜しいでしょうか」
「……」
私を抱える腕の力が一瞬強くなる。
「朔様にもご準備が必要です」
「……分かった」
渋々と暗月が了承し、そして私はようやくそっと降ろされた。
「朔、女官たちにしばらくお前を貸す。すぐに会えるから、我慢してくれ」
「暗月……」
なんだその言い方は? と思った途端、チュッと唇が触れ合った。
「う、っう……!」
ごく自然な動作で凄いことをやらかして、さらにやらかした自覚が無いのか、暗月は柔らかい表情で私を見ている。挨拶がチューって、外人か? 外人なのか⁈ しまった、人外の方だった!
叫び出したいけれどギャラリーがいる手前、反応も出来ない。僅かに口を押さえて暗月を睨みつけるばかりだ。羞恥で頬どころか耳朶まで赤くなってしまった。
「では朔様、どうぞこちらへ」
何故か女官さんが救いを差し伸べる様に話を切り上げてくれる。そして彼女たちの笑みは深まるばかり。その優しさにもぞもぞとした気持ちを抱えつつ、歩き出した。
「では待っているぞ」
まるで捨てられた子犬のような空気を漂わす暗月を後に、彼女たちに囲まれて私は屋敷の中へと入った。
◇◇◇◇
屋敷の中は黒くしっとりとした色合いの木の柱と白い漆喰、石のタイル貼りの床と、落ち着いた風合いで統一されていた。装飾の紋様だけが中華っぽさを醸している。デザイン的には日本の古代にも通じる東洋趣味だけれど、抑えめの色合いでモダンにまとまっていて、とても趣味がいい。
そんな屋敷の中を静々と奥に進み、一つの部屋に案内された。
最初に目についたのは、広々とした部屋の真ん中に置かれた寝台。横のワゴンにはいくつかの華奢な小瓶と、畳まれた布が重ねられている。寝台の奥、真正面は引戸で大きく開け放たれており、庭に面していた。これはまるで、高級リゾート地のホテルに併設されたエステティックサロンだ。