月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
 促されるまま寝台に腰掛け、夜の庭の風景を眺めながらお茶をいただく。気持ちがちょっと落ち着いたところで、七人が目の前に進み出て、居住まいを正した。

「朔様、改めてご挨拶を申し上げます。これからは私共が心を込めて日々ご奉仕させていただきますゆえ、どうぞよろしくお願いいたします」

 全員揃って綺麗な角度でお辞儀をされる。

「あ、はい! よろしくお願いいたします!」

 なんと言っていいか分からず、慌てて私も頭を下げる。このたどたどしさ。社会人何年目だ、私?

 そしてそこから、先に体を清めましょうと促され、女官さんたちの手を借りての入浴。最初にエステだなと思ったからすんなり受け入れたけど、これからも毎回続くとかじゃないよね、これ。
 お風呂から上がると次はいよいよ全身マッサージ。とその前に、水分取りましょうねと、また浴衣のまま寝台に腰掛け、お茶をいただく。

「本当に、お二人が再会出来て良かったです。いったん離れられてからの月の宮様のご様子ときたら、もう」

 なんとなくの休憩タイムに、マッサージ担当の女官さんがそう言って微笑んだ。
 月の宮様って、暗月のことだよね。私が死ぬまで待つようなことを言っていたけど、あの夜以降それなりに気にかけてくれていたんだろうか。

「暗月は、元気でしたか?」

 そうっと聞いてみる。

「毎日、鏡に朔様を映されてはため息をついておられました」

 背後から声がして、そちらを振り向く。色とりどりの着物を持った女官さんはついでに正面に回り込み、その着物と私を見比べ始めた。この人は衣装担当か。

「ええ、朔様に呼び掛けられた時には思わず立ち上がられて、動揺されて」

 また別の女官さんの声が。

「え、ちょ、待って。あれ」

 気がつくとまた七人の女官さんに囲まれていた。そして話がとんでもない方向に行き始めた気がして、ストップをかける。聞きたかったのは、暗月のこと。けれどそこには私とのことが大いに含まれていて、彼のことだけでは済まない気がする。

「あの、すみません。みなさんどこまで何を見ていたのかなー? とか」

 恐る恐る尋ねてみると七人はうふふと笑って、お互いに目配せをした。

「私共は月に従う星の精ゆえに、暗月の夜に下界へと通う宮様の足元を照らしております。宮様と朔様の逢瀬は見守る私共の心までも暖かくなる様な心地でした」
「見守る? って、え」
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