月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「宮様との別れを決意された時の口付け、もう切なくて切なくて……!」
「それよりも、お印に気付かず宮様の名をお呼びになった時! もう、胸が締め付けられるようで!」
「あの、あれ」
「朔様にはお辛いことでしたでしょうが、あの時の月の宮様のお苦しみ様もまた、こちらの涙を誘うものでした」
いやいやいやいや。プライバシーは⁈ ここにプライバシーは無いのか⁈
ごくりと唾を飲み込むと、私は勇気を持って聞いてみた。
「ってことは、あのー、ここ最近の私のことなどは?」
「もちろん存じております。宮様は何故この様な分かり難いお印にされたのかと。いっそ私共で紋章を考案し、朔様の手の甲にでも付けてしまえば。と盛り上がったところで、流石に宮様に叱られてしまいました」
私の印探し、全部把握されてる! やーめーてー! 私の黒歴史、弄らないでー!!
穴があったら入りたい。いや無くても穴くらい掘ってやる。スコップはどこだ。もう、もう恥ずかしい!
飲みかけのお茶を手にしたまま固まってしまった。頭の片隅で、何故暗月が渋い顔をしていたのか、ようやく理解した。
そんな私の動揺を感じ取ったのか、女官のみなさんはまたもや綺麗に頭を下げた。
「申し訳ございません。見守るうちについ、私共の気持ちも入り込んでしまいまして。
ただ、私共がどんなに朔様をお慕いしているか、心を込めて朔様にお仕えしたいと思っているか、お分かりになっていただければと」
「……はい」
「見守らせてはいただいておりますが、ご寝所を覗くことはございませんので、ご安心くださいませ」
ん? ごしんじょってなんだ。
「月の宮様も待ちきれない思いでしょう。そろそろお支度を再開させていただきます」
そうして、全身マッサージに美容パックのフルコースが始まった。星の精っていうのはエステティシャンの資格持ちなのか? 全身艶プルになったところで、先ほど色味を合わせた中華風着物を着付けてもらい、別の部屋に案内された。
エステ部屋と同じく正面にある引き戸が大きく開かれていて、外の景色が見える作り。でもそこに見えるのは、月のようにぽっかりと浮かぶ地球の姿。
その部屋で、暗月が待っていた。
「それよりも、お印に気付かず宮様の名をお呼びになった時! もう、胸が締め付けられるようで!」
「あの、あれ」
「朔様にはお辛いことでしたでしょうが、あの時の月の宮様のお苦しみ様もまた、こちらの涙を誘うものでした」
いやいやいやいや。プライバシーは⁈ ここにプライバシーは無いのか⁈
ごくりと唾を飲み込むと、私は勇気を持って聞いてみた。
「ってことは、あのー、ここ最近の私のことなどは?」
「もちろん存じております。宮様は何故この様な分かり難いお印にされたのかと。いっそ私共で紋章を考案し、朔様の手の甲にでも付けてしまえば。と盛り上がったところで、流石に宮様に叱られてしまいました」
私の印探し、全部把握されてる! やーめーてー! 私の黒歴史、弄らないでー!!
穴があったら入りたい。いや無くても穴くらい掘ってやる。スコップはどこだ。もう、もう恥ずかしい!
飲みかけのお茶を手にしたまま固まってしまった。頭の片隅で、何故暗月が渋い顔をしていたのか、ようやく理解した。
そんな私の動揺を感じ取ったのか、女官のみなさんはまたもや綺麗に頭を下げた。
「申し訳ございません。見守るうちについ、私共の気持ちも入り込んでしまいまして。
ただ、私共がどんなに朔様をお慕いしているか、心を込めて朔様にお仕えしたいと思っているか、お分かりになっていただければと」
「……はい」
「見守らせてはいただいておりますが、ご寝所を覗くことはございませんので、ご安心くださいませ」
ん? ごしんじょってなんだ。
「月の宮様も待ちきれない思いでしょう。そろそろお支度を再開させていただきます」
そうして、全身マッサージに美容パックのフルコースが始まった。星の精っていうのはエステティシャンの資格持ちなのか? 全身艶プルになったところで、先ほど色味を合わせた中華風着物を着付けてもらい、別の部屋に案内された。
エステ部屋と同じく正面にある引き戸が大きく開かれていて、外の景色が見える作り。でもそこに見えるのは、月のようにぽっかりと浮かぶ地球の姿。
その部屋で、暗月が待っていた。