月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「もし出来たらなんだけど、私に三ヶ月猶予をくれる? 海外赴任の決まった彼氏と結婚するんで、寿退社します! って設定で、みんなとお別れしたい。友達ともそうやって会えないことにしてからみんなの記憶を消した方が、何かの拍子で浮かんでも、確かそういう子いたよね、程度で終わるんじゃ無いかな?」
「それは、良いが……」
本当に良いのか? と言わんばかりの暗月に向かって、私は微笑んだ。
「私の決意を舐めてもらっては、困ります。生身の男じゃなく、ファンタジー世界の男を選んだ時点で、色々と覚悟はしているんだから」
覚悟の中には、生きているうちに結局暗月には会えませんでした。ってのもあって、それと死後に失った家族に逢えるのとどっちが良いのか、そんなことを考えていた。
そして結局、私は暗月と共に生きることに決めたんだ。
多分家族も許してくれるはず。私の、家族だもの。
「お前の言うファンタジー世界がどんなものかは知らないが、ここで一生を暮らすことが全て輝かしいわけでは無い」
珍しく弱気な発言を繰り返す暗月が、なんだか可愛く思えてきた。こんな美人さんな月の精を可愛いと思えるのだから、愛おしいって気持ちは最強だ。
「暗月」
あらためて、私は彼と向き合って、真っ直ぐ目を合わせた。
「私をお嫁さんにして下さい。あなたを愛しているんです」
どうだ。って感じで言ってみた。暗月の目が見開いて、なんだか動かず固まっている。いわゆるあれだ。呆気に取られた顔だ。だから駄目押しで言ってみた。
「お願い」
その瞬間、もの凄い勢いで抱きしめられ、唇が合わさった。勢いで歯が当たりそうになるギリギリのところで減速して、何度も角度を変えて口付けされる。
「朔」
あれ? もう終わり?
始まったのと同じくらいの唐突さで唇が離れた。つい目で唇を追ったら呼び掛けられたので、慌てて暗月を見返す。
「もう離さない」
そう言う瞳が鋭すぎて、ぞくりとした。腰のあたりに熱がたまる。
「うん。離さないで」
素直な気持ちで言い返したら、暗月の口角が上がった。
やっぱり優しいだけじゃ無い、なにか熱を孕んだその笑みに、私は思わず見惚れてしまう。暗月はそんな私の視線を受け止めたまま、卓上に手を伸ばす。そして、そこに置かれた料理のうち、ガラスの小鉢を取り上げた。中には八分割にカットされた、白くてみずみずしい果物が入っている。
「桃?」
「それは、良いが……」
本当に良いのか? と言わんばかりの暗月に向かって、私は微笑んだ。
「私の決意を舐めてもらっては、困ります。生身の男じゃなく、ファンタジー世界の男を選んだ時点で、色々と覚悟はしているんだから」
覚悟の中には、生きているうちに結局暗月には会えませんでした。ってのもあって、それと死後に失った家族に逢えるのとどっちが良いのか、そんなことを考えていた。
そして結局、私は暗月と共に生きることに決めたんだ。
多分家族も許してくれるはず。私の、家族だもの。
「お前の言うファンタジー世界がどんなものかは知らないが、ここで一生を暮らすことが全て輝かしいわけでは無い」
珍しく弱気な発言を繰り返す暗月が、なんだか可愛く思えてきた。こんな美人さんな月の精を可愛いと思えるのだから、愛おしいって気持ちは最強だ。
「暗月」
あらためて、私は彼と向き合って、真っ直ぐ目を合わせた。
「私をお嫁さんにして下さい。あなたを愛しているんです」
どうだ。って感じで言ってみた。暗月の目が見開いて、なんだか動かず固まっている。いわゆるあれだ。呆気に取られた顔だ。だから駄目押しで言ってみた。
「お願い」
その瞬間、もの凄い勢いで抱きしめられ、唇が合わさった。勢いで歯が当たりそうになるギリギリのところで減速して、何度も角度を変えて口付けされる。
「朔」
あれ? もう終わり?
始まったのと同じくらいの唐突さで唇が離れた。つい目で唇を追ったら呼び掛けられたので、慌てて暗月を見返す。
「もう離さない」
そう言う瞳が鋭すぎて、ぞくりとした。腰のあたりに熱がたまる。
「うん。離さないで」
素直な気持ちで言い返したら、暗月の口角が上がった。
やっぱり優しいだけじゃ無い、なにか熱を孕んだその笑みに、私は思わず見惚れてしまう。暗月はそんな私の視線を受け止めたまま、卓上に手を伸ばす。そして、そこに置かれた料理のうち、ガラスの小鉢を取り上げた。中には八分割にカットされた、白くてみずみずしい果物が入っている。
「桃?」