月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─

6. そして星の下、酌を交わそう

 一口でいった私とは対照的に、暗月が半分だけ桃を齧る。
 果汁が滴り、私の指を濡らし、手のひらに降りてゆく。それでも暗月が私を見つめたままだから、身動きせずに彼を見つめていた。

 二口目、私の指ごと彼は桃を食む。
 指も一緒に甘噛みされ、舌で桃が擦り潰され、指に(まみ)れ、(ねぶ)られた。

「んっ……」

 その感触が気持ち良くて、思わず小さく声を上げてしまい、恥ずかしくなる。
 暗月の口の中の桃は嚥下されるけれど、彼は私の指を舐ることを止めない。ずっと私を見つめたまま、丁寧に舌で指の形をなぞっていく。
 しんとした室内に、水音が響いている。

 飲み込みきれなかった果汁と唾液が混ぜ合わさり、指から手のひら、手首から肘まで、つぅっと垂れていった。そこでようやく、私の指は彼の口から外される。でもこれで終わらせる気は無いようで、今度はゆっくりと私の手首を握り、その垂れた果汁をなぞり、唇を這わせてきた。

 ああ、そっか。

 不意に気が付いた。

 今から私、この人に食べられてしまうんだ。

 そう納得し、体の奥からふるりと震えた。
 食べられてしまうのなら、それなら私のことを隅々まで堪能し、味わって欲しい。……そして私にも、暗月を味わわせて。

 吸い込まれるように彼の唇に吸い付き、甘噛みした。
 好きという気持ちも、愛しているという気持ちも、何度だって暗月に伝えたい。そんな思いで舌を潜り込ませ、今度こそゆっくりと彼との口付けを堪能する。お互いに食べさせ合った桃の味がまた広がって、自分の中に染み込んだ。ぴちゃぴちゃと、水気を含んだ舌が絡み合う音がする。夢中になっていると、胸に柔らかい刺激が来た。

「あっ……」

 短い叫びが鼻に掛かって甘く掠れている。思ったよりも大きく響いて、また羞恥で頬が熱くなった。

「もう、起ち上がっている」

 やわやわと乳房を揉んだ後、そっと形を確かめるようになぞられて、何処のことを言っているのか教えるようにかりっと先端を引っ掻かれた。
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